木づかいのコツ 不燃木材への挑戦 2 – 『月刊住宅ジャーナル』2019年05月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年05月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1905d1 )。

新連載 直伝 木づかいのコツ 不燃木材への挑戦 2

第6回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

 

[ 月刊住宅ジャーナル ]
工場の隣のご自宅が新しくなりましたね。

[ 守谷 ]
自宅をリフォームしてるんだ。寒い家だったから、ずいぶんあったかくなったよ。自分で作った建具も入れようと思ったんだけど、仕事の方が忙しくて少ししか入れられなかった。玄関のドアは一枚板で取っ手は木。取っ手は海でひろってきたもんだ。海辺に行くと本当にいい流木が落ちててドアの取っ手にぴったりのがあるんだ。もちろん全部タダだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
工場も片付け中ですか。

[ 守谷 ]
30年ぶりの大掃除だ。入らない端材を片付けて、選びに来るお客さんが見やすいように無垢の一枚板を150枚並べている最中だ。
だが、守谷建具でもついに値上げすることになってしまった。プロ向けは今までと同じで変わりないが、単品注文が多い一般のお客さんには、相談料を設定することになった。一般のお客さんだと、相談する時間が製作する時間よりも長くなってしまうこともあるから、相談料を設けないことには、忙しくてどうにもならないんだ。

 

不燃・防蟻・放射線対策

[ 月刊住宅ジャーナル ]
本題に入ります。前回は、不燃木材の一例として、硫安を原料とした不燃材の特徴と注意点について紹介しました。その他の原料でもよいものはありますか?

[ 守谷 ]
不燃木材の原料としては、もう一つ、ホウ酸というのがあって、これは優れた特性をもっている。守谷建具でも実験をしてきたが、一つは不燃、もう一つはシロアリ対策、さらには放射線から身を守る、という3つの機能がある。ホウ酸は、住宅分野では、シロアリの予防用の薬剤として、住宅の基礎用のシロアリ対策の保護塗料に用いられたり、セルロースファイバーという新聞紙を原料とした断熱材にも含まれている。だから、シロアリの予防になるということは業界ではすでに広く知られている。
守谷建具で実験に特に力を入れたのは、放射線の遮断対策効果だ。ホウ素系物質は、原子力発電所の燃料棒を囲っている器にも用いられている。2011年の東日本大震災の後に、大学の先生に依頼して公的試験期間で実験してデータを取得した経緯がある。守谷建具で独自の配合を行って木材に注入すれば放射線による被爆を予防できる効果があることが分かった。試験ではプラスターボードを使ったが、後で外装用にコンクリート板や、釘打ちしやすいゴムとコンクリートを合成したボードを開発して、同等の結果が出せるようにした。このようにホウ酸を使えば、
国産木材を不燃、防蟻、さらには放射線の遮断機能を備えた多機能木材に変えることができる。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
住宅分野の業者の方は、ガンマ線(セシウム137の放射線)に関する知識はおそらくゼロかと思われますが、鉛重金属と同等の放射線遮蔽能力を持つ塗装建材の製造が可能であるということは画期的なことなので、ぜひ記憶にとどめておいてほしいですね。

 

製造コストの優位性

[ 月刊住宅ジャーナル ]
製造コストとしては、木工業者の方が作っても、採算のとれるものなのでしょうか?

[ 守谷 ]
製造コストについては、ホウ酸は粉体で1キロあたり200円ほど、ホウ砂は粉体で1キロあたり150円ほどになる。水を無料と仮定して製造コストを考えると、これを10%の濃度にすれば、15円ほどになる。7%にすればリッターあたり10円ほどで販売できる。守谷建具ではリッターあたり7%の濃度で、硫安やホウ酸で風合いの良い和紙に不燃化できる製法の開発に成功した。つまり、1000リットルで1万円、1立米で1万円と、低コストで製造が可能になる。

 

内装分野の課題 認定問題と白華現象

[ 月刊住宅ジャーナル ]
ホウ酸は、内装の不燃材の用途ではあまり用いられていないようです。課題は何でしょうか。

[ 守谷 ]
2011年に大臣認定の不燃材が試験データと異なる仕様で不適合になったことが影響としては大きい。認定を取り直しても、設計士から採用を断られるケースが多くなってしまった。
内装向けの用途が難しい理由としては、取り扱いが難しいこともある。まず水に溶けやすいことが最大の弱点だ。特に白華現象といって、木の表面にホウ酸が白く浮き出てくる現象が起きてくることがある。せっかく採用されても、これでクレームが出て部材交換になってしまったら、一発で取り消しになってしまう。
守谷建具では、白華現象の出ない製法の開発に成功している。水とホウ酸・ホウ砂の化合物を1:1に混ぜて80℃の熱湯にするときれいに溶ける。それをお湯にして使って、5〜6%に薄めて使う。化合物は濃度が20%になると個体になって、目詰まりを起こすようになる。これが白華現象の原因になるので、濃度を薄めて使うということが重要だ。

 

環境ホルモンの疑い?

[ 守谷 ]
それと、ホウ酸には、もう一つ気になる点がある。これは確かなデータではないようだが、内分泌かく乱物質の疑いがある。海外のニュースで以前そんな話を聞いたことがある。もし、天井に塗って白華現象が落ちこぼれてきたら、環境ホルモンが室内にまかれるというおそれもある。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
守谷さんからの指摘を受けて、編集部でも調べてみました。ホウ酸が、生殖機能に有害性をもたらすのではないかという懸念の一例としては、欧州化学機関(ECHA/European Chemicals Agency)という、欧州連合の専門機関が2010年3月に発表した高懸念物質の8種類の化学物質の一つとして挙げており、認可の必要な高懸念物質に指定した経緯があります。
内分泌かく乱物質の規制の一例としては、カナダ政府が2008年にポリカーボネート製ほ乳瓶の輸入・販売・広告を全面的に禁止する方針を打ち出したことがあります。
こうした海外での動向を受けて日本の環境省では、ホウ酸及びその化合物に対して生態、健康のリスク評価を公表しておりまして、詳しい実験データや海外での鉱山で働いている鉱夫からの聞き取り調査などをもとに、リスクは認められなかったことを示しています。したがって、海外では生態・健康のリスクが心配されているものの、国内の評価としては科学的知見としての有力な裏づけは得られていないという状況です。ホウ酸は大量に摂取するのではなければ毒性は基本的に低いそうで、例えて言うと塩のようなものだそうです。

 

製法について

[ 守谷 ]
ホウ酸、ホウ砂については製造特許はとっていない。公知の事実として紹介できる所は紹介するけど、詳しい製法は公開していないんだ。
特に放射線対策については、大規模な利用のために、政界のお偉方から紹介されて産業界を色々回って提案して歩いたんだ。でも、結果的には重金属なしではありえないという理由で残念な結果になってしまったんだ。今でも試験結果の原本は、守谷建具の知的財産として金庫に大切にしまっている。
もちろん住宅の健在にも応用できるし、本気で取り組みたい企業とは、技術提携したいと思っているよ。

 

試験結果の一部抜粋


左官試験体のガンマ線遮蔽率測定試験結果について 2012年9月20日
(中略)
外装仕上げ材として考えると、上記(2)試験型を15mm厚で左官した場合には、左官部分の鉛相当厚は約1.7mmとなり、下地PB(=プラスターボード)分を加えると鉛相当厚は約2mmとなる。また、左官厚が20mmの場合は、鉛相当厚は約2.5mmとなる。
すなわち、外装左官仕上げとして本配合の材料を使用した場合、15mm〜20mmの塗り厚で、鉛に換算して2〜2.5mm、ガンマ線遮蔽率が15〜20%の効果が得られることになる。
これは、滞在時間が長い住宅内にある人体の被曝量を考慮すると、一定の効果があるものと考えられる。

 


一枚板の建具の例(茅ヶ崎の家:先月号記事)

ホウ酸とホウ砂を煮て中性の液体にする(鉄などの物質の変化を防ぐため)

薬液をつけるとウレタンも燃えなくなった

塗料を塗った建材のガンマ線遮蔽試験の結果について

釘打ち用にゴムと合成したボードを開発

欧州化学機関(ECHA)のホームページ

ほう素及びその化合物の生態・健康リスク初期評価(環境省)

木づかいのコツ 不燃木材への挑戦 – 『月刊住宅ジャーナル』2019年03月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年03月号で紹介されました。以下に転載します。
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新連載 直伝 木づかいのコツ 不燃木材への挑戦

第5回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

参考データ

消防署によると、平成30年1月~3月における総出火件数は、1万1517件。うち建物火災が
6177件。建物火災による死者は1541人。建物火災の死者に占める住宅火災の死者の割合は、88.1%を占めている。建物火災の出火原因は、「こん
ろ」725件(11.7%)、「ストーブ」648件(10.5%)、「たばこ」589件(9.5%)。東京消防庁の調べでは2016年中のストーブ火災の
うち電気ストーブが76%を占めている。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
これまで2回にわたって木材の断面をナノレベルで観察し、優れた透明性があることを確認しました。こうした
木材の特性を活かして、例えば薬剤を注入して新たな機能を付与する化学処理木材への応用も可能と思われます。建具分野では、今、どのような処理木材が必要
だと思いますか。

[ 守谷 ]
今、一番必要なのは不燃材だろう。冬場は乾燥しているから、全国で住宅火災が起きている。しかも、電気ストーブの火災が多い。不燃材で衝立(ついたて)や柵を作ってストーブの回りに置けば、飛ぶように売れるかもしれない。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
ストーブの安全対策用の柵は、スチール製のものが主流ですが、もし、不燃材を使えば、木質インテリアとしてデザイン上の調和を図ることもできるようになります。
こうした木材製品を作る際に重要なことは何でしょうか。

 

大事なのはコスト

[ 守谷 ]
作ること自体は難しいことではない。不燃木材の基本的な製造技術は確立している。問題は、安くつくるための技術が確立していないということだ。だから、守谷建具では、安く作るための製造方法の確立に目下取り組んでいる。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
不燃木材は、まだ市場では普及しておらず、相場観が把握しづらいものがあります。参考になる価格を教えてください。

[ 守谷 ]
木材に塗布する不燃薬剤、これは原材料ではなく、誰でも使いやすいように気にしみ込みやすく製造されているプロ向けの不燃
木材用の塗料のことだが、平均的な価格としては、おおよそ1リットルあたり1500円ほどで取引されている。一見すると安いように思えるかもしれないが、
これをドラム缶ひとつ分(200リットル)作るとすると30万円になる。例えば杉の木材を1立米分(1000リットル)の薬剤の価格は150万円になる。
不燃材をつくるのには、かなりの量の薬剤を使うから、木材よりも薬剤の方が高いと言える。

 

原材料のいろいろ

[ 月刊住宅ジャーナル ]
安く製造するには、何から手を付ければいいのですか。

[ 守谷 ]
プロが本気でやるんだったら、まずは薬剤を製造するための原材料の選定からはじめたほうがいい。
不燃材を作るための原料にはさまざまなものがある。硫安、ホウ酸、アンモニア、グアニジン、タンニンなどがある。このうち、最も安価に入手できるのが硫安だ。肥料として広く使われているので、近くの農協で購入することができる。
うちの畑では、かみさんが野菜を作っていて、兼業農家だから簡単に購入できる。ホームセンターでも購入できる。
(※硫安=硫酸アンモニウム。代表的な窒素肥料の一つ。水を加えると吸熱反応を起こす。消火剤、保冷剤、冷却材としても用いられる。)
硫安を使った不燃木材の良いところは、肥料になるということがある。硫安はもともと肥料だから、不燃木材に使って、最後に廃材にした場合、粉砕して畑にまけば農業肥料として再生できる。

谷建具でも硫安を使った不燃材を作ってみたことがある。驚いたのは、1200℃で燃やした後の不燃材の表面がセラミック状になり通電性が出て、電気を通す
ようになったことがある。これは高温で硫安の成分がしみ出てきて、表面がガラス状になり、おそらく内部に炭素成分があるために通電性があったのだろう。
硫安の注意点としては、357℃で微量のアンモニアガスが発生することがある。ただし、木材に使う位なら濃度が薄いので人体に害はない。アンモニアは不燃薬剤の原料の一つでもあり、不燃材の中には硫安ではなく、アンモニアを混ぜているものもある。

 

ポイントは濃度

コストを下げるためには、原材料の選択もあるが、濃度ということも重要だ。
一般的に不燃木材につける薬液の濃度は20%ほどである。な
ぜ、20%なのかというのは、木材の性質と関係している。通常の自然乾燥の木材の含水率は15%から25%ほどとされていて、これが薬液のコストを下げる
には、不燃木材としての性能が落ちないように薬液の濃度を下げればいい。例えば、10kgで700円の硫安の場合は1リットルの薬剤を20%の濃度でつく
るのに、14円分の硫安を必要とするが、濃度を10%にすれば、わずか7円で済むようになる。
(次号につづく)

不燃材料に関する注意点

市販されている不燃材の多くは公的機関における実験データを取得しており、利用における性能と安全性が第三者に
よって証明されています。性能や安全性が証明されていない不燃材の取扱には十分注意してください。また、薬剤を木材に注入させるには、加圧注入などの専門
的な技術と装置を必要とします。不燃材の性能の確認のため、燃焼等の試験を作業所で行う際には、火の元、飛び火、可燃性物質の有無などに十分に注意して、
近隣の消防署に連絡をとって許可をとり、万全の安全対策をとる必要があります。

木工製品のコスト対策

樹齢40~50年の小径木を有効利用

日本は杉や檜などのいわゆる人口林が森林全体の約4割を占めています。それら人工林は一定面積内に非常に多くの本数の苗木を植え、主伐材になるまでに植えた苗木のうちの4/5を間伐し、まっすぐな品質の高い材へと成長していきます。特に先にも触れた柾目材を切り出す直径500~600mmの木を育てるには、成長の早い針葉樹でさえ約100~150年の年月を要します。

そのように手間と時間をかけて育てた国産材が、海外からの安価な木材の流入により価格が下落していることが近年の新聞・テレビ等で取り上げられ話題となっています。特に、柾目の切り出せない小径木は非常に安い価格で市場にて取引されているのです。

また、木はたくさんの二酸化炭素を吸収・固定して成長していきますが、30~40年で成長ピークを迎え、その後その二酸化炭素の吸収速度は徐々に遅くなります。さらに、杉や檜などの針葉樹は次の子孫を残すために、大量の花粉を飛ばすようになるのです。そのため、成長ピークを過ぎた木を伐採し再び植林をすることは、空気中の二酸化炭素を減らし、花粉の飛散を抑える大きな効果につながります。

そこでこの小径木から切り出した板目材を扉として利用することで、材料費のコストダウンを図るとともに、自然環境保護に繋がります。

*参考資料:林野庁ホームページ

装飾を省いたシンプルデザイン

弊社の扉は材料の持つ柔らかな木目と色のコントラストをデザインの一部ととらえ、最大限に生かすことを心がけています。
パネルや框はシャクリ出し加工やR面加工を行わずフラットに仕上げます。余計な装飾加工を省くこともコストダウンに繋がっています。
(別紙「ドアデザイン」参照)

木の表情を生かす

一本一本の木が持つ表情を活かし、お部屋の雰囲気に合わせたドアをお客様の手でコーディネートしてください。 時間が経過するにつれ序々に材料の色としっくりとなじみ、風合いが出てくる様子を眺めるのもまた良さのひとつです。

施工時の加工や打ち身による塗装はげを防ぐ為、通常弊社からは無塗装で出荷させて頂いております。施工後お好みの塗料でご自身にて塗装して頂くかたちとなります。
一般的な無垢ドアには揮発性塗料が使用されていますが、これには排気等の大掛かりな設備が必要でコストアップの原因にもなります。無塗装にて出荷することもコストダウンに繋がっています。

弊社では下記の㈱プラネットジャパン様の『プラネットカラーシリーズ』をお勧めしています。食器にも使える自然塗料でベタツキが少ないため汚れにくくお客様に好評です。大型ホームセンターにて取り扱っていますのでお好きな色をお選び頂けると思います。(自然塗料は簡単に塗り重ねることができますので、メンテナンスも容易です。)

プラネットカラーシリーズとは

プラネットカラーシリーズはドイツクライデツァイト社と(株)プラネットジャパンが共同開発した100%植物油を使用した安全な天然木材用保護塗料です。
木の特徴を最大限引き出します。人と環境にやさしく、木の質感を損なわない自然塗料です。

  • 溶剤はほとんど含まれていません。
  • シンナーなどの揮発性成分は全く含みません。
  • 環境、人、動物に安全です。
  • 子供の玩具はもちろん木の食器にも塗装が可能です。