木づかいのコツ CLTに異議あり – 『月刊住宅ジャーナル』2018年10月号掲載 – CLTは内部で膨張・収縮を繰り返し自壊する

CLT(杉を交互に重ねて接着した集成材)は湿度の影響を受け、CLT内部の構造の中で膨張・収縮を繰り返し自壊します。木材は方向により膨張・収縮の大きさが違うためです。

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2018年10月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1810d1.pdf )。

新連載 直伝 木づかいのコツ CLTに異議あり

第1回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

連載趣旨
循環型資源である木材の理由にあたっては現場で培った経験と科学的見地に基づいた知識が欠かせない。職人の減少に歯止めがかからない状況の中、本誌では、木材加工において豊富な経験と知見を持ち独自の理論を展開している守谷建具の守谷和夫代表に、木の使い方を主なテーマに洗いざらし質問する新連載をスタートする。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
近年は国の推進もあって、木材の利用をより意識的に進めようとする動きが活性化しています。守谷さんはどのように見ていますか。

[ 守谷 ]
最近では、俺達の世代が持っている木材の知識や経験じゃ、理解できないものが出てきたな。特に、CLTには驚いているよ。CLTってのは、要は杉を交互に重ねて接着した幅はぎ材(*)のことだろ。あれで、問題を起こす業者もかなりいると思うよ。
* 集成材の意味。建具業者は自社で接着して作る。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
問題といいますと…

[ 守谷 ]
建具の業界でいう『パンク』と呼んでいる現象が起きるんだ。つまり木が反り返ったり、膨張や収縮を起こして壊れてしまうんだ。日本の板目の杉は、乾燥と湿気に対してとても敏感なんだ。建具屋では、タモ・杉・桧(ひのき)の集成材をよく仕入れるけど、既製品を仕入れてから4〜5日しておくと、表面が木の収縮で凸凹(でこぼこ)してくるからワイドサンダーで研磨し直すんだ。だいたい8分(24mm厚)から1寸(30mm厚)のは出るよ。集成材は7〜8%まで乾燥させているそうだし、巾(はば)剥ぎ方向が長い上に、CLTだと縦方向・横方向に交互に張るから相当ずれるだろう。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
守谷さんは、新しい材料を建具に用いる際には、すべて自社で試験体を作って実験してから、使うそうですが、CLTのような交互に重ね合わせる幅はぎ材についても自社で実験されたのですか?

[ 守谷 ]
もちろんやってみたよ。和室の鴨居(かもい)によく使う120mm×厚み45mmの杉の材料を使って試験体を作ってみた。含水率を約2%に落とした4寸の2.2尺(670mm)の板を使って、削って厚み40mmにして、16枚積み重ねて、接着剤は使わずに、1枚につきダボ(直径10mm、長さ50mm)を2本ずつ入れて、両側に64本のダボを入れた。これで一年間放置しておりたら、ダボがみんな折れてしまった。
なぜそうなるかというと、杉の板目は湿気と乾燥に敏感だからだ。木材は横方向・長さ方向は収縮がないが、幅方向はすごいあるから、幅方向に引っ張られる。縦方向は伸びないけど、横方向は伸びる。ぬれると幅方向に伸びて、雨がふると外部のパネルの継ぎ目は毛細管現象を起こして、横はぎの方に水を吸い込んでのびる。例えていうと自動車がカーブで曲がる時の内輪と外輪の関係と同じだ。同方向に接着すると、同方向の板に関しては幅がほとんど変わらない。つまり、接着方向を同じ方向にはるとお互いの木材がついていくけど、縦横交互にはると互いの木材がついていかないわけだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
それだけ木が変形すると、接着剤の選択も難しいですね。

[ 守谷 ]
木材の変化についていく接着剤がいい。酢酸ビニール系の接着剤は、湿気があると収縮性があるから木材の変化についていく。うちじゃ、酢酸ビニール系の耐水性の強いボンドだけを使ってる。普通の建具屋が使うボンドの3倍くらい価格がするけど、水に漬けた後に金槌で叩いても剥離しない位強力な接着剤だ。接着面が柔らかいというのがいいんだよ。木の変形追従できるんだ。硬化してしまうタイプの接着剤だと、木の変形に追従できないから、時間がたって伸縮が繰り返されることで接着剤に疲労がおきるんだよ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
守谷さんは、建具づくりにも木の変化に追従できる接着剤を使っているんですか。

[ 守谷 ]
この間の田園調布の玄関ドアにも使ったよ(*)。これは難しいドアだった。加工よりも理論的にも難しかった。なぜかって。そりゃ、普通にこういう中桟なしの一枚板のドアを作ったら、ドアが垂れるに決まっているだろ。蝶番をいくら強いものにしたってドアの重さで垂れ下がってしまうから使えなくなるんだ。
* 2018年9月号P42記事参照

[ 月刊住宅ジャーナル ]
お寺や立派な門構えの家では一枚板の唐戸の開け閉めができなくなって、勝手口から出入りしているのをたまに見かけますが、ドアの垂れは怖いですね。

[ 守谷 ]
垂れをどうやって防ぐかが大事なんだ。まず、ドアの真ん中の板は木の割れを防ぐために、5mmの耐水合板で両面から秋田杉を耐水性の酢酸ビニール系の接着剤ではって、去年の暮から倉庫の2階に4ヶ月ほどすっぽっといてからカットした。4ヶ月放置したのは、はじめに内側の耐水合板と外側の杉の収縮がどれくらい違うか調べたかったからで、やってみたらズレがなかったから使うことにした。
接着するときに接着面の両面に接着剤を塗るか、それとも片面だけに塗るかということも難しいんだけど、ここでは合板に2回塗る。板に塗ると板が伸びてしまうので板には塗らないでプレスする。
それからホンデュランスマホガニーを両面から継いで溝をついてぴったり遊びなしで入れて、ねじで留めて完璧な一枚のパネルにしてから、上桟・下桟のダボをギリギリにしていれた。上桟・下桟の角には養生テープをはってから1ミリ位の遊びでシリコンのコーキングを注入した。枠やパネルが伸び縮みして動いてもいいように、膨張分の遊びが必要になる。それをシリコンのコーキングが収縮分の遊びをつくってくれるので、木が収縮して動いたときにシリコンも収縮するようになる。そこまで木の動きを読んでから現場に納品したというわけだ。
ここでの耐水合板のパネルは木の割れを防ぐ筋交いの役割を果たしていて、木の収縮分をシリコンで受けているという構造だ。