無垢材にこだわった平屋建70坪/田園調布の数寄屋風住宅の建築現場/『月刊住宅ジャーナル』2018年9月号掲載

守谷建具店が手がけた案件が月刊住宅ジャーナルで紹介されました。以下に転載します。
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無垢材にこだわった木の家大好き趣味人の家
田園調布の数寄屋風住宅の建築現場
平屋建70坪/茶室つき/使用木材80m^3

東京の高級住宅地として知られる田園調布において、平屋70坪の和風住宅の建設工事が進められている。洋風の家が多い田園調布の家並みの中では珍しい和風住宅で、近隣で評判となっている。設計を担当したワイツー設計の小俣氏に案内してもらった

[設計の特徴]
施主は現役の実業家で、木をたくさん使った家が大好き。いくつかの家を持っており、今回は瓦屋根の和風住宅で無垢の木にこだわろうと思い、以前、紀州桧で作った住宅の雑誌記事を見てワイツー設計に依頼。家の構成としては、3人家族を想定して設計。お茶会など多目的に使える間取りとし、LDK(オープンキッチン型)+多目的和室(食事・茶室・お客様用寝室)+個室+書斎+予備室+ビルトインガレージ その他各部屋収納としている。茶室設計に関しては、表千家流茶道で長年学んできた経験を活かし、茶事にも対応できる露地計画を含めた設計とした。建物は、道路に接する南側を雁行させ、化粧軒裏部屋を磨丸太の独立柱で支えた造りとし、和風住宅に欠かせない庭との繋がりに重点を置いて建物と外溝をトータルでデザインした。周りの近隣住宅との調和も視野に入れた設計としており、例えば 家の顔となる玄関周りは、アプローチを600角タイルのモダンな色違い市松柄配置とし、玄関を和風でありながら観音開き扉にするなど近隣に溶け込みやすいデザインとした。内部においては、パブリックスペース(玄関ホール・和室・LDK)は 化粧柱を生かせる真壁造りとし、その他は大壁造りで、和風モダンな設えとした。

[田園調布の協定]
この住宅は、不動産価値と木材利用という二つの側面から際立った特徴を持っている。敷地面積255坪、東西に長い南東の角地という和風住宅の設計に適した立地である。この敷地には、「日本資本主義の父」として知られ、大正年間後半に日本ではじめて住宅と庭園の街づくり”田園都市構想”を提唱した渋沢栄一(1840~1931年/田園調布の創設者)の邸宅があった。その後は2棟の住宅が建ち、近年は大手企業が遊休地として保有していた。
住宅の建設にあたっては、田園調布環境委員会と協議し、合意を得た計画を区役所に提出した。田園調布には独自の規定がある。例えば、敷地境界線から敷地内に環境緑地として幅員1m以上の植栽ゾーンを設けなければならない。塀を設ける場合は、境界線の1m以上内側に設置する。塀は生垣が推奨されているが、フェンスや柵の場合は高さ1.5m以下とし、石材・コンクリートの場合は高さ1.2m以下とする。駐車スペースにシャッターを付けれる場合は、シャッター面は見通せる材質及び形態とする。隣接地に配慮して、北側の開口部は隣家の南側にあたることから、不透明性のガラスなどを採用しなければならない。こうした独自の規定を守りながら建設が行われた。
工期は約8ヶ月。昨年10月に地鎮祭を執り行ったが、台風の影響で月の3日ほどしか稼働できず、11月から本格的に工事を開始し、2018年6月に建物が完成。造園は今年9月頃から工事開始予定。

[使用木材は約80立米]
使用木材は、構造材、造作材、建具材を合わせると約80立米(m^3)。平均的な戸建て木造住宅での木材使用量は、約20立米未満と言われているので、約4棟分超の木材が用いられている。
構造材は全て無垢材とし、柱には紀伊半島材の桧(JAS構造材)120角を使用。主に丸宇木材(東京都江東区亀戸)で仕入れた。玄関ホール、和室、LDKの4寸角化粧柱、7寸(212mm角)の大黒柱は吉田ヒノキ。窓の連格子や雨のかかる箇所にもヒノキ材を用いた。軒廻りで見える無垢の桁材は米松平角材を用いた。
床材は無垢フローリングで、広幅(150mm)でゆかだんぼうにもたいおうすることがじょうけんであったため、和風・洋風どちらにも合わせやすいメープルの挽き板(3mm厚)を用いた。玄関ホールから各居室までは沓摺(くつずり)を設けず、20m近く通し張りのため、無垢材の色を選り分けてからの床張りとなった。
建具・無垢の家具・銘木類は、守谷建具(埼玉県所沢市)で作成。一般的に木製建具は、合板(シナベニアなど)、輸入木材(スプルース等)の枠材、化粧シート剤(メラミン樹脂等)を接合・接着して製作されることが多いが、守谷建具は、独自技術で4年ほどかけて養生した杉や檜などの無垢材の建具に特色があり、生産性に優れた機械設備を駆使して製造。ドアの面材には秋田杉の挽き板、下駄箱などの造作材には山武杉(さんぶすぎ)(千葉産)の銘木を用いており、長年の風雨で形成された木目を意匠として見せている。ドアの枠材・框材・木製サッシには国産ヒノキ、銘木としては、玄関ドアに40年前に仕入れたホンデュラスマホガニー、リビングの収納に白地のラオスヒノキ、床の間の地板には、名古屋の廃業した銘木店の倉庫から出てきたという樹齢600年ほどの4m1枚板の栂(とが)サワラ(日本栂(つが)によく似た樹種)を用いるなど、現在では入手が難しい樹種も用いられた。

[軒先と茶室の特色]
軒先を見ると、主屋根は、いぶし銀の瓦葺き、下屋根はいぶし金の鋼版葺き、垂木の鼻が見える意匠としている。軒で小口を見せようとすると、雨樋(あまどい)を用いずに、軒先からそのまま雨を落とすことになる。これは寺院や京都の庭園などの屋根で見られるやり方で、屋根周りが数寄屋風のすっきりとした意匠に仕上がっている。下屋根軒下には、伊勢五郎太(いせごろうた)石を雨落ち石に敷いて雨水を落としている。庭の化粧砂利も京都のさび石を用いて、建物との色の調和をとっている。
東側に向いた和室は茶室としても利用される。茶室の露地・庭園は秋からの造園予定で、立ち蹲(つくばい)を和室廊下の濡縁(ぬれえん)先に置き、景色を作る計画だ。本誌記者の見学時(6月中旬)には、すでに飛び石が敷かれていた。茶室は8帖の広間で、LDKとの境にある引込型の戸襖を閉じれば独立した空間になる。天井には霞雲(かすみぐも)を現した照明が塗天井に埋め込まれ、釣釜(つりがま)用の蛭釘(ひるくぎ)が打たれている。床の間は垂れ壁で富士山の袴越(はかまごし)の稜線を現し、違い棚と地窓障子横桟(じまどしょうぎよこざん)で霞雲を現した富士山型霞床(かすみどこ)、また、床の向かい側壁面に軸釘・中釘を設けて壁床に見立てることで霞床の機能面を補う形とした。
茶室の造作工事には、伝統的な大工の技法が駆使された。外壁のリシンかき落とし作業では、約10名の左官職人が集まってかき落としを行うなど、伝統的な技能の維持・継承という面においても特色があり、田園調布においても、近年では珍しい普請となった。

DATA
所在地 東京都大田区田園調布
敷地面積 845.30m^2 (255坪)
建物面積 256.18m^2 (77.49坪)
延床面積 223.66m^2 (67.65坪)
敷地条件 第1種低層住宅専用地域
大田区景観計画 大田区みどりの条例
景観法 第2種風致地区
田園調布地区計画 田園調布会 田園調布憲章
建物構造 在来軸組工法
建物規模 平屋建
設計監理 ワイツー設計
構造設計 SC設計
施工 本間建設

正面玄関 袖壁円窓越しに力竹・晒煤竹の連格子が見える
( 写真提供 松井一真 )

正面玄関のドアの面材は秋田杉とホンデュラスマホガニーを組み合わせた ドア枠の下部には腐食防止の鋼版
( 写真提供 松井一真 )

茶室は8帖の広間 床の間は垂れ壁や霞棚で雲間の富士山をあらわしている

橡の銘木の上がり框

壁床 中釘にかけた花入れ

金箔を散らした漆喰
( 写真提供 松井一真 )

水屋
( 写真提供 松井一真 )

茶室前の飛び石・延べ段

リビングの引込障子とカウンター飾棚 収納(ラオス桧)
( 写真提供 松井一真 )

玄関ホール兼寄付 待合床が控えている
障子を開けると露地の景色を楽しめる
( 写真提供 松井一真 )

リビングから玄関ホールを見る
( 写真提供 松井一真 )

待合床吊棚
( 写真提供 松井一真 )

リビング収納(左から地窓を組み込んだ桧飾棚 ラオス桧収納井桁調桧飾棚)
( 写真提供 松井一真 )

主寝室 棚・カウンターは杉無垢材 収納扉は桧無垢材
カーテン類もトータルでコーディネートした
( 写真提供 松井一真 )

子供部屋 棚・机は杉無垢材 デスクボードはコルク板を使用
入口扉は桧羽目板風框戸
( 写真提供 松井一真 )

建物西側から見た外観
( 写真提供 松井一真 )

化粧軒裏屋根を磨丸太の独立柱で支えている
( 写真提供 松井一真 )

書斎の引き出しの左右対処の面材は一枚板の秋田杉

廊下 居室入口のニッチ棚
( 写真提供 松井一真 )