直伝 木づかいのコツ 屋外門扉を腐らせないコツ – 『住宅ジャーナルウッドテクノロジー』2025年06月号掲載

守谷インテリア木工所が住宅ジャーナルウッドテクノロジー(株式会社エルエルアイ出版) 2025年06月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( jwt_2506d1.pdf )。

直伝 木づかいのコツ 屋外門扉を腐らせないコツ

守谷和夫 (有)守谷建具店 守谷インテリア木工所

[ 守谷 ]
屋外でも腐らない木の門扉を頼まれていて、ついに完成した。明日出荷するところだ。都内のリフォーム物件(発注元:㈱アヴェントハウス、東京都中央区日本橋)で採用される。1枚2,300mmの観音開きの門扉2枚、間口4,600mmで腐らない処置をしている。

[ JWT ]
縦桟を近くで見ると木の色がそれぞれ違って見えます。

[ 守谷 ]
杉の赤身と黒杉をまぜて使っているから色が違っている。黒杉というのは、文字通り黒い杉のことだ。杉材を伐採したばかりの丸太の切り口は普通の色だが、空気に触れると黒く変色する。おそらく酸化作用と思われる。乾燥しにくく腐りにくい特性を持ち、昔は風呂桶に使われていた。

[ JWT ]
腐らない門扉のコツは材料選びだということですね。

[ 守谷 ]
材料選びも大事だが、計算することも大事だ。計算とは、木がどのように変化するかをあらかじめ予想して、対策をほどこしておくことだ。この門扉はどこが弱いと思う?

[ JWT ]
雨が当たる框の小口なんかは、傷みやすいのでは?

[ 守谷 ]
そう、框や上桟の上部は、今は仮でベニアを貼っているが、現場で銅板を張って雨水侵入の対策をする。これは多くの木製門扉でやっていることだ。なぜ銅板を使用するかというと酸化により緑青が発生し、防腐剤の役目をするからだ。うちでこだわっているのは、上桟と框の留め方だ。ここは腐りやすいので、一般的なほぞで留めるのではなく、ステンレスのビスで留めて込み栓を入れている。
その他にも弱い箇所がある。下桟だ。こうした門扉が月日が経ってどのように壊れるかというと、縦桟を伝って流れ落ちてきた雨水がほぞの木部を腐らせて縦桟が外れる。さらに下桟と框の隙間に雨水が侵入してほぞを腐らせ、下桟が外れてバラバラになる。
そうさせないための対策として、塗装は基本3回塗りとして、ほぞの中も塗る。下桟は5~6回塗る。ほぞに接着剤をつけると劣化するので接着剤は使わず、両面テープを厚くして締め付けて防水処理をする。こうした取り付け方法は、アルミサッシの枠のやり方を応用している。それと、小口は面取りをして塗料が浸透しやすいようにしている。
下桟と框を留めるほぞは、1枚の巾2,300mmの門扉であれば、框巾100mmとすると異常気象により杉赤身(心材)で収縮率0.5~1.0%、白太(辺材)で1.0%~1.5%、桧でも同程度、扉2枚で4~5mmの遊び(余裕)を持たせる。6~7月の長雨で框1本あたり約1mm、4本で4mm伸びる(膨張する)と予想している。玄関の開き戸でも框1本で3~4mm増えるのでクレームの原因となる。
この大型の門扉では、戸車に高さがあるから問題ないが、一般的な引き戸では、戸車にも工夫が必要だ。台風の雨風でレールとの隙間に雨水が吹きこむと、戸車の接合部が腐りやすくなる。そのため高さの高いレールを使って防腐対策をする。玄関引き戸となると重量25~35kgとなり戸車の固定部に無理が生じてくる。そのため、木部の劣化対策として40kg用の戸車を2個ずつ4個入れることにより、荷重が分散されて動きもスムーズになる。特に必要なのは、框の上下部分、戸車固定部分に防腐オイルをしみこませることで、これが大事だ。

直伝 木づかいのコツ 屋外での木材の利用と塗装2 – 『住宅ジャーナルウッドテクノロジー』2025年04月号掲載

守谷インテリア木工所が住宅ジャーナルウッドテクノロジー(株式会社エルエルアイ出版) 2025年04月号で紹介されました。以下に転載します。
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直伝 木づかいのコツ 屋外での木材の利用と塗装2

守谷和夫 (有)守谷建具店 守谷インテリア木工所

[ 守谷 ]
庭の前を流れる河原を歩くと腐った土止め板だらけだ。これは3〜4年前に設置したばかりなんだが、とんでもないことに松の木を土止め板に使っている。見ての通り、白太(辺材)から腐っている。

[ JWT ]
腐った木をじっと見ていると気持ちが何かすさんできますね。

[ 守谷 ]
松の木というのはこういう所に使うもんじゃないんだ。昔は家の梁とかに使っていたんだが、今じゃ使い道がないんだろうな。そっちの方に見えるのは杉の丸太だ。こちらは、3〜4年経って小口が割れているが、赤身(芯材)はまだ腐っていない。

[ JWT ]
この丸太は確かに大丈夫ですが、向こうの杉の杭は白いキノコがついて腐っています。なぜでしょうか?

[ 守谷 ]
あれは桜の並木のそばにあるからだろう。春から秋の落葉まで桜の葉が茂って日陰になるから紫外線による除菌効果が落ちて腐りやすくなると思われる。

[ JWT ]
杉(シダー類)は、北米大陸では西海岸とか海岸の山脈沿いに生える木です。杉も松も海沿いの木と言えますが、どうして持ちが違うんですか。

[ 守谷 ]
それは独自に進化したからだろう。松は松茸が近くに生えるように腐りやすくできている。広葉樹も腐ってキノコが生えるが、再生力の強い木が多い。例えば楢の木は、切るとひこばえが生えてくるように再生する力が強い。杉は腐れて何十年経っても赤身の芯だけを残そうとするが、一度切ったら再生しない。それは特定の環境で種を残すために進化したためだろう。木材を選ぶということは、使用する環境で固有の進化を遂げた木材組織が生き残れるかどうかを考えることだ。

木材を細胞レベルで考える

[ 守谷 ]
杉の丸太は屋外に放置すれば、雨水を通して腐るが、赤身だけは腐らない。その理由は、電子顕微鏡を使って細胞レベルで見ると、杉の赤身は水を通さないように水を通す組織に蓋がされているためだ。そこで、この杉の組織を壊して不燃用の薬剤を注入するための実験を27年前に行って成功した。加熱減圧処理をかけることで、設定温度130度以上で水蒸気爆発を起こすことを実験で確かめたんだ。

[ JWT ]
今日ではバイオコークスなど植物の組織を大きく変えた素材も出てきましたが、石炭問題もあってバイオサーマルの用途は伸び悩んでいます。また、建築基準法では、燃えないことよりも避難経路を確保することに重点が置かれるようになり、薬剤を注入した不燃処理木材は幅広い用途での普及の目途が立ちにくくなっています。川沿いの丸太は、コールタールを塗るだけでも長持ちするんじゃないですか?

[ 守谷 ]
コールタールが普及していた半世紀前と現代のどこが違うのかというと、木材の組織そのものは何も変わらないが、お客さんの趣向が変わったということだ。ほしい素材はコールタールの対極にあるモノで、原料にはまず脱化石燃料という条件がある。それに石油系ではなく耐水性を備えた水性系と植物油系が求められている。色はクリア(透明色)塗装で、とにかく色のついているのはダメなんだが、色を付けないと紫外線による劣化が進みやすくなる。かといって欧米から輸入された自然系塗料だと日本の高温多湿異常気候に合わず、カビにも弱い。そこで仲間と独自に開発したのが「MTウッドコート」という塗料だ。この塗料は、3センチ角の木辺サンプルを用いて性能試験を行った。温度26℃±2℃、湿度95〜99%を保った恒温器内で、蓋をしたシャーレ(容器)に木辺サンプルと5種類のカビ供試菌を入れて、7週間経過してもカビを抑える効果があることがR&Dセンターの実験で確かめられている。「MTウッドコート」(仮称)は、下塗り用の「MTウッドコートU」と二度塗り用の「MTウッドコートT」の二種類の塗料を使う。使い方のコツとしては、粗いサンドペーパー(80〜100番)で表面をザラザラにする下地調整をしてから塗ることだ。そうすると塗料がしみこみやすくなる。柾目も板目も小口と木端の角部では必ず面とりをしてから塗装することがコツだ。サンドペーパーで粗びかせると、それだけ塗料を吸い込む面積が増えるので耐久性に大きな影響が出てくる。

直伝 木づかいのコツ 屋外での木材の利用と塗装1 – 『住宅ジャーナルウッドテクノロジー』2025年01月号掲載

守谷インテリア木工所が住宅ジャーナルウッドテクノロジー(株式会社エルエルアイ出版) 2025年01月号で紹介されました。以下に転載します。
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直伝 木づかいのコツ 屋外での木材の利用と塗装1

守谷和夫 (有)守谷建具店 守谷インテリア木工所

[ 住宅ジャーナルウッドテクノロジー ]
2021年7月号まで住宅ジャーナルで22回にわたって連載していた「木づかいのコツ」ですが、終了後もまた守谷さんのレクチャーを読みたいという声を多く頂きました。発想が面白いとのことで、きっと、この木工所の2階の窓から見えるトトロの森と狭山茶のお茶畑の力なのではないでしょうか…。ところでお仕事の方はどうですか?

[ 守谷 ]
無垢材専門なので、住宅の仕事は、さすがにこの不況で減ったね。今は店舗の依頼が多い。6~7割は店舗かな。

[ 住宅ジャーナルウッドテクノロジー ]
木工所に長い板がありますが、何に使うものですか。

[ 守谷 ]
これは鎌倉の日本料理店でカウンターに使うものだ。無地で1枚長さ4.5m、巾60cmある。観光客のお客さん向けに杉材を使っている。寿司屋のつけ台だとヒノキを使うが、この大きさだと価格は、想像がつかないよ。

[ 住宅ジャーナルウッドテクノロジー ]
インバウンド需要を取り込んでいますね。

[ 守谷 ]
それと相談が多いのが、外回りの木工製品だ。この間も門扉の相談があったが、屋外で長くもたせるためにどう作ったらいいか分からず、インターネットを検索して、うちに辿り着くらしい。ちょっと、外に出て現物を見てみよう。

《移動》

[ 住宅ジャーナルウッドテクノロジー ]
近所の「さいたま緑の森博物館」に着きました。ここは、里山の自然そのものを展示した屋外博物館(フィールドミュージアム)です。杉の枯れ葉と枝で作ったトトロが見えます。田んぼの前でツーリング客の方がペダルを漕いでいます。

[ 守谷 ]
「バイクベンチ」というアート遊具作品の自転車のサドルとペダルは、製作協力して、木の部分をうちで作ったんだ。サドルには桐、ハンドルには、ブナの木を使っている。11月にできたばかりだ。

[ 住宅ジャーナルウッドテクノロジー ]
ブナの木ですか、ドイツでは古民家にも使われているそうですが。

[ 守谷 ]
ドイツは寒冷地だから持つかもしれないが、日本は高温多湿だから、屋外じゃ大してもたない。ここでは塗料で持たせる計画なんだ。「MTウッドコート」という新しく共同開発した塗料でね。水性で透明な木材用塗料だ。紫外線保護と防腐を強くしている。
日本では屋外で一般的にウレタン塗料を使うんだが、環境先進国のドイツでは、ウレタンは紫外線で分解されにくいので、あまり使用されていない実情がある。そこでウレタンの特性を応用し、紫外線を吸収する物質で桐材への紫外線をカットすることができる水性塗料にした。
うちを建て替えた時に、ドイツ性の自然保護塗料を外壁やドアに塗って試してみたんだが、日本だと長雨で黒カビが生えてしまう。防腐性能が高くないと長持ちしないんだ。この新しい塗料でも、屋外だと3年ほどすると効果が落ちてくると思う。だから、3年に一度塗り直しをしてメンテナンスする予定だ。

[ 住宅ジャーナルウッドテクノロジー ]
桐は、長持ちするんですか?

[ 守谷 ]
桐は、空気の層が多いから軽いしい、細胞の構造が違うので、水も空気も通しにくく火災にも強い。また体積の空気率は、95%~90%で、含まれる空気は炭酸ガスと思われる。

[ 旅人 ]
私は長野の佐久から来ましてね、長良川の氾濫でうちの桐箪笥が流されました。後で見つけて箪笥を開けてみたら、中の物がきれいで無事でした。

[ 住宅ジャーナルウッドテクノロジー ]
ツーリング客の方からも貴重な証言が得られました。

[ 住宅ジャーナルウッドテクノロジー ]
今度は、塗料を塗らない木材の状態を見に川原の杭を見に行こう。自分が27年前に書いた論文の通り、杉の辺材・芯材の細胞の仕組みについで分かるだろう。

木づかいのコツ リフォームはシックハウスの元 – 『月刊住宅ジャーナル』2022年06月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2022年06月号で紹介されました。以下に転載します。
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連載 直伝 木づかいのコツ リフォームはシックハウスの元

補遺篇
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月間住宅ジャーナル ]
大きな板ですね。何に使うものですか?

[ 守谷 ]
お寺なんかに使う杉の天井の一枚板だ。11mm厚の幅3尺、長さ4mある。養生としては、木表が乾きやすくて、湿気があると沿ったり割れたりしてしまうから、木表同士を合わせて木裏を外に向けて乾かすのがコツだ。
初めてお寺の建具をやったのは、22~23歳の頃で多福寺(三芳町)の本堂をやったので見に行ってみようと思って、この間いったんだ。半分目つぶってみないとダメかなと思っていたんだが、楔代(ほぞ穴を手鑿で拡げて楔を打ち込んで緩まなくする強固な留め)で留めた木曽ヒノキの建具は胴付きが一つも透いてなかった。これは木裏は必ず外部に向けるといった基本を守っていたおかげだ。国産材の杉・桧は、木裏に出る芯材部の空気水分の透過性が低いため外部に向けるといい。

[ 月間住宅ジャーナル ]
こちらは、ハイドアですね。

[ 守谷 ]
高さ2400mm。設計事務所からの依頼で作ったんだ。欄間付きの方が、軽くて使いやすいんじゃないかと思うんだけど、最近の流行なんだろうね。
無垢の木を使うと体にいいから、健康住宅に使いたいって依頼が多いよ。そこに置いているテレビラックも化学過敏症のお客さん向けに作ったもんで、無垢材で板の巾はぎ以外は木ネジと釘で留めた。
この間もお客さんが訪ねてきてね。勤め先の会社でリフォームしたらシックハウスになったから、無垢の木のドアを使いたいっていうんだ。

[ 月間住宅ジャーナル ]
リフォームをすると、どうしてシックハウスになるんでしょうか。ぜひ、詳しく聞かせてください。

[ 守谷 ]
サラリーマンで、何でも外壁なんかを塗り替えている工事中になったそうなんだ。おそらく気化した溶剤や、もしくは気化した物質の臭いを吸ったのが原因なんだろうな。真夏の暑い時や締め切っている時が特にまずいんだ。

エタノールとメタノールの違い

自分も20年ほど前に実験で二液性のエポキシ樹脂を硬化剤で混ぜ合わせていた時に、ハエが飛んできたらポトッと落っこちたのを見たことがある。化学反応で発生するガスは有害な物質が多いんだ。
木材には、ホルムアルデヒドが含まれていると誤解している人もいるんだが、シックハウスの原因と言われているホルムアルデヒト、つまりホルマリンは、常温の木そのものには含まれていない。
まずはメタノールとエタノールを混同しないことが大切だ。木材に含まれる油成分をテレピン油と言うんが、この主成分はエタノールだ。エタノールはお酒と同じアルコールだ。エタノールを120℃~130℃に熱して酸素を与えるとホルムアルデヒドになる。
一方で石油から作る工業用のアルコールのことをメタノールと呼ぶ。終戦直後は、ヤミ市でニセモノの酒を買って失明した人もいたんだが、これは工業用アルコールのメタノールを飲んだためだった。間違って柿の渋抜きに使用されたこともあるそうだ。値段で比較すると、メタノールの方が、エタノールよりも断然安い。
守谷建具でも自然塗料を使っているんだが、主成分が植物性のオイルになっている。オレンジの皮の物質と同じで、メタノールじゃなく、安全な植物性の揮発物質だ。
また、内装ドアの接着剤には、耐水性の酢酸ビニール系の接着剤を使う。

[ 月間住宅ジャーナル ]
一般的にシックハウスといいますと、アレルギーやハウスダストの症状から、化学物質過敏症まで様々な症状を指しておりますので、編集部で一覧化してみました(P16参照)。お客さんの事例は、典型的な化学過敏症の症例にあたりますね。

[ 守谷 ]
シックハウス対策の難しいところは、過敏症の程度によって、それぞれ対策が違ってくることだ。
以前、合板を使わない無垢材だけの家を建てて、建具も全部無垢材で作ったことがある。奥さんが重度の化学過敏症でね。他の建築屋さんで建てた家に住んでいたんだが、シックハウスがひどいもんだから、建て直したんだよ。
こういう症状だと、木材も吟味しないとダメなんだ。特に腐りにくい木材は反応しやすい。杉の芯材(赤身)、桧の芯材などは、ほとんどの人は体に良いし、匂いを嗅いでも、いい匂いですねと良い反応をするんだが、ごくまれに過敏症の反応を起こす人がいる。
ケヤキの芯材(赤身)は腐りにくく匂いも強いが動物には良いとされている。餅つきの臼と杵はケヤキの芯材で作られている。面白いのは、犬にケヤキの芯材を見せるとすぐになめるし、ケヤキの新芽を見つけると喜んで食べる。おそらく防腐効果のあるタンニンの成分のせいだろう。
また、外まわりのウッドデッキに使われる米杉の芯材は、カビが発生しないし、腐りもしないが、匂いも強い。木材過敏症の人には反応する人が多い。自分自身も米杉を加工する時は必ずマスクをする。昔、米杉ぜんそくという病名までついたように、マスクがないと咳が止まらなくおそれがあるためだ。
国産の地松は、カビが発生しやすい。自然界に放置すると腐りやすいし、よくねじれるが、強度はある。松類を高温乾燥することにより、ねじれもなく腐らなくなる。この現象はおそらく松の油成分が化学反応したためと思われる。
これと同じようなことは、杉、ヒノキ、ベイヒバなどの針葉樹の高温乾燥材にも言える。化学過敏症の人が接着剤から出る揮発性物資のほかに、針葉樹から出る揮発成分に反応することも考えられる。

[ 月間住宅ジャーナル ]
それでは、木材は健康に良いという常識は大間違いになのでしょうか?

[ 守谷 ]
いや、そうじゃない。赤身はだめだけど、白太なら過敏症を起こさない。それとカビの発生しにくい腐りやすい木材は過敏症を起こさない。例えばモミとかツガとかは、重度のシックハウスには向いている。
モミってのは、この辺りじゃ、がん箱(棺桶)や墓に供える塔婆に使われていた木だ。よく燃えるし、埋めるとすぐに分解される。戦後間もない頃は、この辺(狭山丘陵、トトロの森)では土葬が続いていて、自分も中学の時に墓堀りの手伝いに行ったもんだ。先にじいさんが死んで、ばあさんも続いて死んだ家でね、じいさんから離して穴を掘ったつもりが、じいさんの近くだったので、掘ったら遺体混じりの土が出てきたんだが、不思議とがん箱は消えてなくなっていた。それ位にモミの木ってのは、赤身がなくて、分解されやすい木なんだ。家の外回りには向かない木だが、重度の過敏症の人には栄養分がないから内装には良いはずだ。
持論だが、おそらく栄養分のある木というのは、中心部が雨水などで腐ってしまわないように一種の抗菌作用をもった赤身を形成するんだろう。そうやって、木の強度を保ち倒木を自身で防いで守っているのではないだろうか。抗菌作用があるということは、ヒバの抽出液なんかがそうだが、一種の毒性があるということだ。それが重度のシックハウスの症状のある人には反応してしまう。
だから、抗菌作用があって長持ちする赤身よりも、分解されやすい白太を使った方がシックハウスには良いということになる。

[ 月間住宅ジャーナル ]
無垢材で新築の家を建してたのに重度のシックハウスが治らなかった方は、その後、どうしたんですか。

[ 守谷 ]
6月に完成した家で、こういう風にしたら良くなった。まず、夏の間は、家じゅうを閉め切って揮発成分を出しつくす。そして夜になってから窓をあけて風を通す。これを3カ月間続けて秋の10月から住み始めたらすっかり良くなった。
これは、今から30年ほど前の実験を参考にしたやり方だ。その頃はシックハウスの検証のために長期間、家の中を50~60℃以上の高温にして建材の揮発成分を出していたんだが、結果的には木材が乾燥し過ぎてすき間が出てしまった。
だから、実験ほどに室内を高温にする必要はないが、新築の家なら、夏場の温度を利用して、揮発成分を出してしまうという方法がいい。できれば3年~4年経過した木材を使用するといい。
研究レベルで言うと、シックハウスの原因となる揮発成分は何十年経っても建材に残るとも言われているんだが、実生活レベルでは、ひと夏やるだけで、住み心地がだいぶ変わってくる。
とにかく、化学過敏症とかアレルギー体質とか、その気のある人は、新築やリフォームで、後々ひどい目に遭わないように、あらかじめ用心しておいた方がいい。

木づかいのコツ 外まわりの建具のコツ2 – 『月刊住宅ジャーナル』2021年10月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2021年10月号で紹介されました。以下に転載します。
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連載 直伝 木づかいのコツ 外まわりの建具のコツ2

補遺篇(其ノ参)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月間住宅ジャーナル ]
前回(7月号)は、寺院向けに出荷する無垢建具をもとに、外回りの建具のコツについて構造面から教えてもらいました。塗装のコツについても教えてください。

紫外線カットと墨

[ 守谷 ]
最近では、木材にはガラスを謡った無機系の塗料が良いという話を聞くが、何かの誤解ではないかと思う。塗料の組成を詳しく見ないと分からないが、単純にガラスであれば、木材は収縮してもガラスは収縮しないので、表面に目に見えない割れが出て水分が入ってくる。ウレタンだと木材に追従して収縮するので、有機系の塗料でなければ木材の塗装には適さない。
守谷建具では、紫外線をカットする自然系のウレタン塗料を使っている。防腐剤としてタンニン(柿渋の一種)を混ぜていて、その上に紫外線吸収剤の透明なウレタンを塗る。
お寺の古い門札を見たことがあるかな。木が傷んでいるのに、墨で書いたところだけが、新しくて傷んでないから不思議だろう。

[ 月間住宅ジャーナル ]
そういわれてみれば、墨が塗ってあるところは傷んでいません。不思議ですね。

[ 守谷 ]
あれは、黒い墨の成分が紫外線をカットしている。からだ。墨の部分は浮いて、周りは劣化する。化粧品でも同じ効果が出るが、表層の墨で紫外線をカットして下の木材に紫外線が届かないようにしているんだ。
ただし、黒だと赤外線を吸収するので温度が上昇するから、夏になると割れるかもしれない。だから、温度の上昇しない透明な紫外線カットの塗料を使っている。
木材は、風が吹かないと割れないんだが、30~40度の温風でも風が吹くと急激に乾くので割れやすくなる。服は無風だと乾かないが、風が吹くと衣類がすぐに乾くのと同じことだ。

面の取り方に注意

[ 守谷 ]
木製建具、特に木製サッシは、未塗(みそう)で現場に納品することがほとんどだ。この習慣を変えなければ、塗料の塗り方を学んでも役に立たない。現場では、わざわざ丁番(ちょうばん)まではずして塗る職人なんかいないし、一番弱い胴付(どうつき)の木口(こぐち)の塗装までできないから劣化が早くなる。まずは、材料費を少しでも減らしたい元請けを説得して、未装じゃ駄目なんだということを納得してもらって変更させないとだめだ。
特に外部建具、サッシは組立て前に木口に塗装することだ。注意すべきことは、木口の面の取り方だ。まず、胴付きにほぞやダボを差し込む前に、守谷建具では、鉋で45度の面をとってから木口を塗装する。こうすると塗料がしみこみやすくなる。
なぜ、45度の面をとるかというと、木材の水を吸い込む道管(どうかん)は、気圧の変化で浸透圧が異なってくるからだ。
先ほど服が乾くのには風が必要だという話をしたが、木材の木口面が塗料を吸い込むのには、直線の断面にすると、同じ気圧になるから吸い込みにくくなる。斜め45度の面をとると道管の面積が大きくなり、気圧が異なって塗料を吸い込みやすくなる。
室内用の無垢建具では、ここまで塗装はしないが、外まわりの建具では、木口面を樹脂化しないと、水分を吸い込んでしまうから木が傷みやすくなる、こうやって組み立て時にあらかじめ継ぎ目を塗装していけば、雨が降っても大丈夫だというわけだ。
やりにくい箇所としては、ダボ(ほぞ)の箇所がある。ダボの箇所は受ける前にやると接着しにくくなる。だから、塗装した後にダボを掘って接合させるんだ。それと、下枠(したわく)に水抜き用の穴をあけるのをわすれないことだ。また、門戸などは、ミゾの中に5mmぐらいの銅パイプを入れると、通気と銅の緑青(ろくしょう)で防腐効果が出る。

月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版)2021年10月号より転載