木づかいのコツ リフォームはシックハウスの元 – 『月刊住宅ジャーナル』2022年06月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2022年06月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal_2206d1.pdf )。

連載 直伝 木づかいのコツ リフォームはシックハウスの元

補遺篇
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月間住宅ジャーナル ]
大きな板ですね。何に使うものですか?

[ 守谷 ]
お寺なんかに使う杉の天井の一枚板だ。11mm厚の幅3尺、長さ4mある。養生としては、木表が乾きやすくて、湿気があると沿ったり割れたりしてしまうから、木表同士を合わせて木裏を外に向けて乾かすのがコツだ。
初めてお寺の建具をやったのは、22~23歳の頃で多福寺(三芳町)の本堂をやったので見に行ってみようと思って、この間いったんだ。半分目つぶってみないとダメかなと思っていたんだが、楔代(ほぞ穴を手鑿で拡げて楔を打ち込んで緩まなくする強固な留め)で留めた木曽ヒノキの建具は胴付きが一つも透いてなかった。これは木裏は必ず外部に向けるといった基本を守っていたおかげだ。国産材の杉・桧は、木裏に出る芯材部の空気水分の透過性が低いため外部に向けるといい。

[ 月間住宅ジャーナル ]
こちらは、ハイドアですね。

[ 守谷 ]
高さ2400mm。設計事務所からの依頼で作ったんだ。欄間付きの方が、軽くて使いやすいんじゃないかと思うんだけど、最近の流行なんだろうね。
無垢の木を使うと体にいいから、健康住宅に使いたいって依頼が多いよ。そこに置いているテレビラックも化学過敏症のお客さん向けに作ったもんで、無垢材で板の巾はぎ以外は木ネジと釘で留めた。
この間もお客さんが訪ねてきてね。勤め先の会社でリフォームしたらシックハウスになったから、無垢の木のドアを使いたいっていうんだ。

[ 月間住宅ジャーナル ]
リフォームをすると、どうしてシックハウスになるんでしょうか。ぜひ、詳しく聞かせてください。

[ 守谷 ]
サラリーマンで、何でも外壁なんかを塗り替えている工事中になったそうなんだ。おそらく気化した溶剤や、もしくは気化した物質の臭いを吸ったのが原因なんだろうな。真夏の暑い時や締め切っている時が特にまずいんだ。

エタノールとメタノールの違い

自分も20年ほど前に実験で二液性のエポキシ樹脂を硬化剤で混ぜ合わせていた時に、ハエが飛んできたらポトッと落っこちたのを見たことがある。化学反応で発生するガスは有害な物質が多いんだ。
木材には、ホルムアルデヒドが含まれていると誤解している人もいるんだが、シックハウスの原因と言われているホルムアルデヒト、つまりホルマリンは、常温の木そのものには含まれていない。
まずはメタノールとエタノールを混同しないことが大切だ。木材に含まれる油成分をテレピン油と言うんが、この主成分はエタノールだ。エタノールはお酒と同じアルコールだ。エタノールを120℃~130℃に熱して酸素を与えるとホルムアルデヒドになる。
一方で石油から作る工業用のアルコールのことをメタノールと呼ぶ。終戦直後は、ヤミ市でニセモノの酒を買って失明した人もいたんだが、これは工業用アルコールのメタノールを飲んだためだった。間違って柿の渋抜きに使用されたこともあるそうだ。値段で比較すると、メタノールの方が、エタノールよりも断然安い。
守谷建具でも自然塗料を使っているんだが、主成分が植物性のオイルになっている。オレンジの皮の物質と同じで、メタノールじゃなく、安全な植物性の揮発物質だ。
また、内装ドアの接着剤には、耐水性の酢酸ビニール系の接着剤を使う。

[ 月間住宅ジャーナル ]
一般的にシックハウスといいますと、アレルギーやハウスダストの症状から、化学物質過敏症まで様々な症状を指しておりますので、編集部で一覧化してみました(P16参照)。お客さんの事例は、典型的な化学過敏症の症例にあたりますね。

[ 守谷 ]
シックハウス対策の難しいところは、過敏症の程度によって、それぞれ対策が違ってくることだ。
以前、合板を使わない無垢材だけの家を建てて、建具も全部無垢材で作ったことがある。奥さんが重度の化学過敏症でね。他の建築屋さんで建てた家に住んでいたんだが、シックハウスがひどいもんだから、建て直したんだよ。
こういう症状だと、木材も吟味しないとダメなんだ。特に腐りにくい木材は反応しやすい。杉の芯材(赤身)、桧の芯材などは、ほとんどの人は体に良いし、匂いを嗅いでも、いい匂いですねと良い反応をするんだが、ごくまれに過敏症の反応を起こす人がいる。
ケヤキの芯材(赤身)は腐りにくく匂いも強いが動物には良いとされている。餅つきの臼と杵はケヤキの芯材で作られている。面白いのは、犬にケヤキの芯材を見せるとすぐになめるし、ケヤキの新芽を見つけると喜んで食べる。おそらく防腐効果のあるタンニンの成分のせいだろう。
また、外まわりのウッドデッキに使われる米杉の芯材は、カビが発生しないし、腐りもしないが、匂いも強い。木材過敏症の人には反応する人が多い。自分自身も米杉を加工する時は必ずマスクをする。昔、米杉ぜんそくという病名までついたように、マスクがないと咳が止まらなくおそれがあるためだ。
国産の地松は、カビが発生しやすい。自然界に放置すると腐りやすいし、よくねじれるが、強度はある。松類を高温乾燥することにより、ねじれもなく腐らなくなる。この現象はおそらく松の油成分が化学反応したためと思われる。
これと同じようなことは、杉、ヒノキ、ベイヒバなどの針葉樹の高温乾燥材にも言える。化学過敏症の人が接着剤から出る揮発性物資のほかに、針葉樹から出る揮発成分に反応することも考えられる。

[ 月間住宅ジャーナル ]
それでは、木材は健康に良いという常識は大間違いになのでしょうか?

[ 守谷 ]
いや、そうじゃない。赤身はだめだけど、白太なら過敏症を起こさない。それとカビの発生しにくい腐りやすい木材は過敏症を起こさない。例えばモミとかツガとかは、重度のシックハウスには向いている。
モミってのは、この辺りじゃ、がん箱(棺桶)や墓に供える塔婆に使われていた木だ。よく燃えるし、埋めるとすぐに分解される。戦後間もない頃は、この辺(狭山丘陵、トトロの森)では土葬が続いていて、自分も中学の時に墓堀りの手伝いに行ったもんだ。先にじいさんが死んで、ばあさんも続いて死んだ家でね、じいさんから離して穴を掘ったつもりが、じいさんの近くだったので、掘ったら遺体混じりの土が出てきたんだが、不思議とがん箱は消えてなくなっていた。それ位にモミの木ってのは、赤身がなくて、分解されやすい木なんだ。家の外回りには向かない木だが、重度の過敏症の人には栄養分がないから内装には良いはずだ。
持論だが、おそらく栄養分のある木というのは、中心部が雨水などで腐ってしまわないように一種の抗菌作用をもった赤身を形成するんだろう。そうやって、木の強度を保ち倒木を自身で防いで守っているのではないだろうか。抗菌作用があるということは、ヒバの抽出液なんかがそうだが、一種の毒性があるということだ。それが重度のシックハウスの症状のある人には反応してしまう。
だから、抗菌作用があって長持ちする赤身よりも、分解されやすい白太を使った方がシックハウスには良いということになる。

[ 月間住宅ジャーナル ]
無垢材で新築の家を建してたのに重度のシックハウスが治らなかった方は、その後、どうしたんですか。

[ 守谷 ]
6月に完成した家で、こういう風にしたら良くなった。まず、夏の間は、家じゅうを閉め切って揮発成分を出しつくす。そして夜になってから窓をあけて風を通す。これを3カ月間続けて秋の10月から住み始めたらすっかり良くなった。
これは、今から30年ほど前の実験を参考にしたやり方だ。その頃はシックハウスの検証のために長期間、家の中を50~60℃以上の高温にして建材の揮発成分を出していたんだが、結果的には木材が乾燥し過ぎてすき間が出てしまった。
だから、実験ほどに室内を高温にする必要はないが、新築の家なら、夏場の温度を利用して、揮発成分を出してしまうという方法がいい。できれば3年~4年経過した木材を使用するといい。
研究レベルで言うと、シックハウスの原因となる揮発成分は何十年経っても建材に残るとも言われているんだが、実生活レベルでは、ひと夏やるだけで、住み心地がだいぶ変わってくる。
とにかく、化学過敏症とかアレルギー体質とか、その気のある人は、新築やリフォームで、後々ひどい目に遭わないように、あらかじめ用心しておいた方がいい。