木づかいのコツ 不燃木材への挑戦 – 『月刊住宅ジャーナル』2019年03月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年03月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1903d1 )。

新連載 直伝 木づかいのコツ 不燃木材への挑戦

第5回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

参考データ

消防署によると、平成30年1月~3月における総出火件数は、1万1517件。うち建物火災が
6177件。建物火災による死者は1541人。建物火災の死者に占める住宅火災の死者の割合は、88.1%を占めている。建物火災の出火原因は、「こん
ろ」725件(11.7%)、「ストーブ」648件(10.5%)、「たばこ」589件(9.5%)。東京消防庁の調べでは2016年中のストーブ火災の
うち電気ストーブが76%を占めている。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
これまで2回にわたって木材の断面をナノレベルで観察し、優れた透明性があることを確認しました。こうした
木材の特性を活かして、例えば薬剤を注入して新たな機能を付与する化学処理木材への応用も可能と思われます。建具分野では、今、どのような処理木材が必要
だと思いますか。

[ 守谷 ]
今、一番必要なのは不燃材だろう。冬場は乾燥しているから、全国で住宅火災が起きている。しかも、電気ストーブの火災が多い。不燃材で衝立(ついたて)や柵を作ってストーブの回りに置けば、飛ぶように売れるかもしれない。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
ストーブの安全対策用の柵は、スチール製のものが主流ですが、もし、不燃材を使えば、木質インテリアとしてデザイン上の調和を図ることもできるようになります。
こうした木材製品を作る際に重要なことは何でしょうか。

 

大事なのはコスト

[ 守谷 ]
作ること自体は難しいことではない。不燃木材の基本的な製造技術は確立している。問題は、安くつくるための技術が確立していないということだ。だから、守谷建具では、安く作るための製造方法の確立に目下取り組んでいる。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
不燃木材は、まだ市場では普及しておらず、相場観が把握しづらいものがあります。参考になる価格を教えてください。

[ 守谷 ]
木材に塗布する不燃薬剤、これは原材料ではなく、誰でも使いやすいように気にしみ込みやすく製造されているプロ向けの不燃
木材用の塗料のことだが、平均的な価格としては、おおよそ1リットルあたり1500円ほどで取引されている。一見すると安いように思えるかもしれないが、
これをドラム缶ひとつ分(200リットル)作るとすると30万円になる。例えば杉の木材を1立米分(1000リットル)の薬剤の価格は150万円になる。
不燃材をつくるのには、かなりの量の薬剤を使うから、木材よりも薬剤の方が高いと言える。

 

原材料のいろいろ

[ 月刊住宅ジャーナル ]
安く製造するには、何から手を付ければいいのですか。

[ 守谷 ]
プロが本気でやるんだったら、まずは薬剤を製造するための原材料の選定からはじめたほうがいい。
不燃材を作るための原料にはさまざまなものがある。硫安、ホウ酸、アンモニア、グアニジン、タンニンなどがある。このうち、最も安価に入手できるのが硫安だ。肥料として広く使われているので、近くの農協で購入することができる。
うちの畑では、かみさんが野菜を作っていて、兼業農家だから簡単に購入できる。ホームセンターでも購入できる。
(※硫安=硫酸アンモニウム。代表的な窒素肥料の一つ。水を加えると吸熱反応を起こす。消火剤、保冷剤、冷却材としても用いられる。)
硫安を使った不燃木材の良いところは、肥料になるということがある。硫安はもともと肥料だから、不燃木材に使って、最後に廃材にした場合、粉砕して畑にまけば農業肥料として再生できる。

谷建具でも硫安を使った不燃材を作ってみたことがある。驚いたのは、1200℃で燃やした後の不燃材の表面がセラミック状になり通電性が出て、電気を通す
ようになったことがある。これは高温で硫安の成分がしみ出てきて、表面がガラス状になり、おそらく内部に炭素成分があるために通電性があったのだろう。
硫安の注意点としては、357℃で微量のアンモニアガスが発生することがある。ただし、木材に使う位なら濃度が薄いので人体に害はない。アンモニアは不燃薬剤の原料の一つでもあり、不燃材の中には硫安ではなく、アンモニアを混ぜているものもある。

 

ポイントは濃度

コストを下げるためには、原材料の選択もあるが、濃度ということも重要だ。
一般的に不燃木材につける薬液の濃度は20%ほどである。な
ぜ、20%なのかというのは、木材の性質と関係している。通常の自然乾燥の木材の含水率は15%から25%ほどとされていて、これが薬液のコストを下げる
には、不燃木材としての性能が落ちないように薬液の濃度を下げればいい。例えば、10kgで700円の硫安の場合は1リットルの薬剤を20%の濃度でつく
るのに、14円分の硫安を必要とするが、濃度を10%にすれば、わずか7円で済むようになる。
(次号につづく)

不燃材料に関する注意点

市販されている不燃材の多くは公的機関における実験データを取得しており、利用における性能と安全性が第三者に
よって証明されています。性能や安全性が証明されていない不燃材の取扱には十分注意してください。また、薬剤を木材に注入させるには、加圧注入などの専門
的な技術と装置を必要とします。不燃材の性能の確認のため、燃焼等の試験を作業所で行う際には、火の元、飛び火、可燃性物質の有無などに十分に注意して、
近隣の消防署に連絡をとって許可をとり、万全の安全対策をとる必要があります。