木づかいのコツ 不燃木材への挑戦 3 – 『月刊住宅ジャーナル』2019年07月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年07月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1907d1 )。

新連載 直伝 木づかいのコツ 不燃木材への挑戦 3

第7回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月刊住宅ジャーナル ]
前回は、不燃木材の一例として、ホウ酸を原料とした不燃材の特徴と注意点について紹介しました。これまで硫安やホウ酸を原料とした不燃木材について追ってきまして、性能面においても、製造コストにおいても優位性があることがわかりました。これらを一定の品質で大量に生産するには、どのようにすればいいのですか?

生産性の高い製造方法
[ 守谷 ]
去年の朝の連続ドラマで、チキンラーメンの創業者の話があったろ。あのドラマを観ると、不燃木材を製造するためのいいたとえがあるんだよ。
まず、不燃木材の生産性が低くてコストが高止まりの要因は何かということから考えてみる。
一番の要因は、乾燥技術だ。一般的な不燃木材は含水率15%~25%ほどの普通の製材を使っている。これではだめなんだ。普通の木材にいくら薬剤を含浸させようとしてもなかなか入らない。
なぜ入らないかということは、この連載の第3回目(1月号6頁)で勉強した通りだ。杉には赤身と白太があって、赤身には、壁孔に膜がついてふさがっている。この弁は簡単には開くものではないから、赤身には薬剤が含浸していかない。だから、不燃木材を製造する業者は、白太だけを選び出して含浸させようとするから、木材のコストがアップするんだ。
薬剤を白太に含浸させるだけなら、とにかく木材の含水率を下げて0%~3%にすると、薬剤がしみこむ。
では、含水率3%まで木材を乾燥させるには、どのような技術を使えばいいかということだ。既存の高温乾燥技術ではだめだ。赤身は(芯材)は劣化するが、壁孔は破れないんだ。

木材でチキンラーメン
[ 月刊住宅ジャーナル ]
高温乾燥材は、今から10年近く前に内部劣化が問題になって、木造住宅での利用が減少し、集成材のシェアが拡大したという経緯があります。

[ 守谷 ]
あれは、木材の熱質量に関する基本的な知識不足が原因だ。木材の研究者は熱力学の基礎なんて普通は勉強しないからな。
例えば、100℃のサウナに入っても火傷しないのに、ホッカイロを腹につけていると、なぜ低温やけどをするか説明できる木材の研究者がどれだけいるのだろうか。
ホッカイロの原料となる鉄の比重は約5だ。水の比重が1だから5倍の熱を蓄える力(熱質量)がある。だから、すぐに火傷する。サウナの空気の比重は0なので、熱をたくわえないから火傷しない。
木材を高温乾燥すると真ん中の熱質量が高くなるから、内部気圧が高まり、圧力釜と同じ原理になって劣化する。木材は、仮比重で0.3 ~ 0.4。水は1。空気の比重はゼロだ。ところが木材は、空気の部分を除くと、仮比重0.3 ~ 0.4からセルロースの実質比重の3に近づいてくる。木材に対して比重の低い物質で熱すると内部と外部のムラができる。だから、高温乾燥に内部劣化の問題も起きてくるというわけだ。 (注1)
熱を均質に伝えるための解決方法としては、水分と同等に近い比重の液体を選ぶといいということだ。
熱を均質に伝える例として、石やきいもがある。石やきいもは、比重の高い石を使うから、時間をかけていもの中の水分を均質にとばしてホクホクにする。だからうまい石焼きいもができる。
もう一つたとえになるのが、最初に言った朝の連続ドラマのチキンラーメンだ。あれは油で乾燥させる「天ぷら乾燥」技術だ。高温の油で水蒸気爆発を起こす技術だ。ただし、油は引火して燃えやすいから、食品はいいとしても、木材製品の乾燥には使えない。
もう一つ、より安全な技術として用いられているのが、パラフィン乾燥の技術だ。ここでは油の代わりに蝋(ろう)をつかう。油と蝋は同じようなもので、引火しにくいメリットがある。ロウは水よりも比重が高くて100℃でも焦げない。外の比重に対して内の比重が少なくなって差がなくなると、爆発的に内部の水分を気化して外に出す。これがパラフィン乾燥の原理だ。
木材をインスタントラーメンのように乾燥させれば、木材が孔だらけになって、3分でできるインスタントラーメンのように、不燃薬剤がしみこみやすくなる。
これらと同じ原理を使えばいい。溶けたロウの中に木材を入れると、危ない、すべる、燃える、と危険だらけだから他の材料を使う。加熱ができて、水分と相性の悪い液体がいい。そうすると天ぷらと同じ原理で、比重・熱質量が高い材料で乾燥させて木材をインスタントラーメンのようにすることができる。
つまりは、木材の細胞の中で水蒸気爆発を起こさせればいいということだ。フリーズドライと同じ原理、つまり加圧で真空にしても、同じことになる。
それでは、どのような機械を使ったら、この天ぷら乾燥の技術を木材乾燥に応用できるのか。次回で画期的な技術を提案してみたい。
(次号に続く)


杉材の細胞壁孔

細胞壁孔は膜で閉じられている

杉材の細胞壁孔の膜を破った状態

 

注1: 内部劣化のメカニズムについては様々な説がある。本誌では守谷氏の説に基づいている。