木づかいのコツ あやとりの原理で強度アップ – 『月刊住宅ジャーナル』2019年12月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年12月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1912d1 )。

新連載 直伝 木づかいのコツ あやとりの原理で強度アップ

第11回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月間住宅ジャーナル ]
守谷建具の木工建具では、桧材の木表と木表を張り合わせてて、ドアの表面にも木裏を使うそうですが、どうしてなのでしょうか。

[ 守谷 ]
木表と木表同士を組み合わせるということは、伝統的な木造建築はもちろん、橋梁や超高層タワーの技術にも相通じるところがあるので一つ一つ説明しよう。
最近では利用が少なくなっているが、根曲がりの松を天井裏でみたことはあるだろうか。例えば農家の納屋の天井なんかでよく見かけるむくれた梁(はり)があるだろう。

[ 月間住宅ジャーナル ]
古民家などでたまに見かけます。地松(じまつ)の梁ですね。

[ 守谷 ]
その梁は、上向きに曲がっているか、それとも下向きに曲がっているか?よく注意して見てみると上向きに曲がっていて屋根を支えているんだ。もし、これを逆の下向きにしたら、建物の構造は弱くなってしまう。だから、昔の大工は曲がっている方を上向きにしてつけたんだ(図参照)。
これはダムの構造と同じだ。川の水をせきとめるためにダムは上向きに反っている。
むくり木の反発する力を梁や床組に利用すると強度に優れた木組みを作ることができる。これは無垢材を使った無垢建具でも同じことだ。反りがでる木を2枚逆向きに組み合わせて1本の框(かまち)を造れば、框の反りがなくなる。同じことは、橋でも言える。
吊り橋は、ワイヤーを支柱で留める構造が一般的だ。しかし、瀬戸大橋のような超大型の吊り橋になると、ワイヤーを支柱で留めると、風の揺れに支柱がワイヤーで引っ張られる。そこで瀬戸大橋では、支柱をつらぬいてワイヤーを通してその上で留めるようにした。こうすると風で揺れてもプラスマイナスゼロで、引っ張る力がゼロになる。引く力が押す力に変換されるため強度が増して支柱の負担が減るんだ。
これを守谷建具では「あやとりの原理」と呼んでいる。例えば一本の支柱に穴を通して、反対側に引っ張ると、引っ張られたものが反対側に動くだろう。
こうした反発の力を反対にそる力に変換する構造体が東京スカイツリーだ。あの構造体もねじれていて、スパイラルで力を変換しているんだ。
最新の建築物もそうだが、堂宮建築でも同じことが言えるそうだ。五重塔のような建物では、ほぞを穴に入れる時は、低層ではあえてゆるめに入れておくと、高層に積み上がるに従って重みでしまってくる。塔が風に揺れると木がねじれながら乾燥するのでしだいに締まってくるんだ。昔は生木を使っていたから、今よりも自然の木の反りやねじれの力をうまく利用しようとしていたんだ。
こうしたあやとりの原理の力学を応用して開発したのが、守谷建具の耐震パネルだ。一つは垂直・水平の杉の格子に鉄筋を斜めに入れているタイプで、これは住宅よりももっと耐力の必要なビルなどの建築物向けだ。もう一つは鉄筋を使わずに杉の格子を斜めに使ったものだ。住宅のパネルにも応用することができる。

[ 月間住宅ジャーナル ]
漆喰の下地に入れる小舞(こまい)を巨大化して、筋交いのように斜めの角度にしたようなパネルですね。一定の耐力が期待できます。

[ 守谷 ]
あやとりの原理は、フラッシュドアの芯材にも応用することができる。一般的なフラッシュドアの芯は横に入れるが、守谷建具では反っている芯桟を3寸(約10cm)間隔で縦に入れてホチキスで留めて、ベニアを張って作っている。こうすると、それぞれの芯材の反りが互いに反発して引っ張る力をゼロにするので、強度に優れたドアを作ることができる。

[ 月間住宅ジャーナル ]
最近は小径木からとった木材が多く、芯桟も反りやすいので、反りの反発を利用することで強度に優れたドアができますね。

木づかいのコツ 木工機械の独自開発術 – 『月刊住宅ジャーナル』2019年10月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年10月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1910d1 )。

新連載 直伝 木づかいのコツ 木工機械の独自開発術

第10回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月刊住宅ジャーナル ]j
今月号では、守谷建具の木工機械に注目してみたいと思います。どのような機械があるんですか。

[ 守谷 ]

  • 守谷建具では、主に、これだけの木工機械がある。
  • NCルーター (5軸/シンクス製)
  • ダボ堀り専用機 (アイキューワン製)
  • ワイドサンダー (Micro製/イタリア)
  • 直角二面かんな
  • 角のみ盤
  • みぞ突き機
  • ホットメルト式エッジパンダー
  • 集成材機(最長4mまで框の集成が可能)
  • 8軸モルダー(飯田工業製)
  • プレス機
  • 自動かんな

これらの木工機械のうち、最近使わなくなったのは、8軸モルダーとエッジパンダーだ。10年前にフラッシュドアから無垢建具に主力製品を変えたから、今ではフラッシュドアを作ることがなくなって、縁貼り機(ふちはりき)がいらなくなった。
木工機械というのはちょっとした条件の違いですぐに気難しくなる。輸入機械なんかは特にそうで、このイタリア製のワイドサンダーもそうだ。イタリアは日本よりも気候が温暖だから勝手が違うそうだが、冬になると毎年ベルトが外れてしょうがなかった。ところが、ガムテープをベルトの内側にはったら、ピタリと直った。機械メーカーも色々試したが、原因不明ということだったから、自分で色々試してみて調整しないと、うまく動いてくれないんだ。
一番高額な機械は、NCルーターだ。これは今から30年前に導入したものだ。当時の新鋼工業(現在のシンクス)の話によると、建具屋の建付加工用途としては国内第一号機で、電気工事、刃物、他の部品含めて約4000万円だったから、他の木工機械と比べても大体10倍近い金額がするわけだ。
一般的な木工屋と違うのは、うちは木工機械の位置をしょっちゅう変えて、作業効率の一番いい位置にしているんだ。ただし、このNCルーターは30年位置を変えていない。加工精度を安定させるために、住宅のようなコンクリートの基礎を打設しているから他の位置には変えられないんだ。
最近は、うちのせがれが「守谷インテリア木工所」という屋号にしているんだが、自分の名刺には「NC工房守谷建具」って名称をいれているんだ。だからNCルーターは、今でもうちの主力の木工機械だ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
NCルーターやダボ堀り専用機は、守谷建具のオリジナル設計ですね。今月号ではオリジナル機械の開発について詳しく教えてもらえますか。

[ 守谷 ]
今、見積もりをとって開発中のマシンもあるし、共同事業者を見つけて広めていきたい機械もあるから、色々紹介するよ。

NCマシンのシステムを独自に開発

[ 月刊住宅ジャーナル ]
一番最初の開発から順を追って教えて下さい。

[ 守谷 ]
最初の頃は、特許も出していなかったから、正式な開発者とは呼べるかどうかは分からないが、木工機械の業界に影響を与えたものに、NCルーターのテーブルの原点の位置がある。
30年前にNCルーターを導入したときは、X軸、Y軸、Z軸の3つの軸の原点の位置がテーブルの中央にあったんだよ。中央にあると、プログラムが大変でね。やりにくくてしょうがないから、機械の勉強の時に、俺が原点をテーブルの左角にすることで、位置決め作業が3分の1に軽減できた。新鋼工業の技術の人が来たときに「あれ動かない」なんて言ったから、「俺が変更した」って言ったんだよ。
それがきっかけで、原点の位置が中央から角に代わって、数年後にはどこのメーカーもNCの原点の位置を変えるようになったんだ。この話は、今から10年ほど前に、業界の裏話で教えてもらったんだよ。
NCルーターは、主軸のパッキンが破損したので、テーブルを外してあるが、この定規は0.1mm~4.0mmを調整するためにオリジナルで制作して取り付けたものだ。それとテーパーがんなも取り付けた。これはNCルーターでドアの大手を入り勝手に削るためのものだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
こんな特殊なNCルーターは今まで見たことがありません。

[ 守谷 ]
もともと、この機械を導入したきっかけは、建具の建込みで、鉋(かんな)と鋸(のこぎり)を使っていて腱鞘炎(けんしょうえん)になったことがきっかけなんだ。当時はフラッシュドアだったんだけど、とにかく建具の枠材がまがっていて調整が大変だったんだ。腱鞘炎で鉋がもてないから、建付け前に当時最新のロボットの機械でドア枠の曲がりを正確に合わせようと思い導入したんだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
どうやってゆがみを正確に測るのですか。

[ 守谷 ]
こんな風にプログラムを組んだんだ。
(紙で図を描く)
NECの初期のコンピューターの9801に、自由曲線を描くシステムをつくって、このカーブを区切って1,2,3の数値に置き換えていく。建具が0.3ミリ曲がっていれば、区切り部分の直角三角形を計算して、削り出す寸法を算出するサブプログラムを作ったんだ。この入り勝手(いりかって)を削るためにテーパーかんなもつくった。
つまり、現場で建具職人が経験と勘で決める1厘(りん)とかの建て込みの微調整をロボット(=NC)が数値化して測定して、削り出すという仕組みだ。これで建込みの作業効率がものすごく良くなった。60坪の家で建具が200本あった家があったが、NCを導入したおかげで2人で1日で終わらせることができるようになった。
こういうNC加工の技術は、今の建具職人が不足している時代には必要なことだと思うよ。
ただし、建具屋にとってはこの技術は難しくて、まともに使いこなせる業者が、今までうちしかいなかった。使えないと結局クレームにつながるから普及しなかったんだ。
うちの所沢でも以前は20軒も建具屋があったんだが、材料から木製建具を作っているのは今ではうちだけになってしまった。だから、高度な機械をもっと簡単に使えるノウハウが必要なんだろうな。

人工知能付きミゾ加工機の開発に挑戦

[ 月刊住宅ジャーナル ]
現在も新しい木工機械を開発しているんですか。

[ 守谷 ]
今、メーカーに見積を出してもらった所だ。ミゾ加工機の人工知能化だ。これはうちのせがれが詳しいから呼んでくる。
これからの木工機械の開発で必要なことは、安全対策だ。木工屋では指のない職人が多いだろ。それはかんな盤なんかで指を滑らせて刎ねてしまうからだ。
今の木工機械の最新技術というのは、大型で高額の機械に集中している。大型の機械が国の補助金の給付を受けて導入が進んでいるが、小型の木工機械はすっかり進化が止まったものと思われている。
もちろん今の木工機械は消費者保護のために昔のものよりも安全対策はついているよ。でもこれからは高齢者や若手の入植者のためにもっと高度な安全対策をほどこした方がいいと思うんだ。木工屋は指のないのが当たり前なんて思っていちゃだめなんだよ。
[ 知 ]
守谷知(とも)です。前職では、精密機械の故障検査用のスキャナーの開発をしていました。(注1)

[ 守谷 ]
今、木工機械のメンテナンスは、知(とも)にまかせている。音を聞きいただけで機械の故障箇所が分かるから助かってるんだ。

[ 知 ]
音で分かったっていうのは、たぶんNCの給気バルブ1ヶ所切れてた時のことだね。あれは音を聞けば分かります。
木工機械では、どこが壊れているかということを見つけることも大切で、見当違いの修理相談すると、修理工具を間違えてもってくることがあるんですよ。

[ 守谷 ]
守谷建具の作業で一番あぶないのは、手押し鉋(がんな)でやる作業だ。木工メーカー、安全対策のためにかんな刃にカバーを付けることが義務付けられているが、実際の現場では大きな部材を加工するので、作業のじゃまになるからとってしまうことが多いんだ。
だから、手押しかんなの刃の上にはいつも合板の3ミリを両面テープで固定して、かんな刃が手でふれないようにしている。
もう一つのあぶない所は、みぞをついている時に木が跳ね飛ばされてしまうことなんだよ。木が跳ね飛ばされたり、勢い余って自分がカッターの刃に突っ込んでしまったりする。
そこで開発したいのは、ミゾつき機の改良版だ。例えて言うとジャンピングソーっていう、カットソーのようなものがあるんだが、ジャンピングソーのように半自動化するための仕組みだ。
開発のポイントは、二つある。一つは手押しかんなのローラーを人間の手のような形にして木材をよりしっかり抑えることができるようにしたことだ。
もう一つは、スキャニングのカメラをつけてみぞ突きの位置を読み取れるようにすることだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
読み取り機はどうやって開発するんですか。

[ 知 ]
読み取り機能は、既製品がいくつかあるのでそれを利用します。最初は音声の読み取り機能を考えていたんだけど、木工所の作業場は騒音がひどくて聞き取ることができない。次に線を読み取る装置を検討しました。でも建具の部材には書き込みが結構多いから、モノクロを読み込むだけじゃ判別できない。そこで青や赤の線だけを読み取ることができる装置をつけるようにしてNCマシンのシステムを独自開発します。
問題は、このカメラの取り付け位置です。材料を振り回してぶつけてしまわないかとか、機械の振動で読み取り精度が落ちないかとか、木くずがついたカメラやレンズふいて傷がつかないか、やっぱり手動でやった方が早いのではないかとか、色々な課題があるので、それらを一つ一つ解決している所です。

注1 本人ではなく、守谷和夫へのインタビューに基づいた記者氏の解釈による紹介文です。この紹介文は間違ってはいませんが、実態とは離れています。

木づかいのコツ 無垢建具の仕入れのコツ – 『月刊住宅ジャーナル』2019年09月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年09月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1909d1 )。

新連載 直伝 木づかいのコツ 無垢建具の仕入れのコツ

第9回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月刊住宅ジャーナル ]
今月号では、無垢材を使った建具づくりの仕入れのコツをテーマとして、ハイビック埼玉店(埼玉県熊谷市)の木材市場を訪問しました。ここは工務店など建築のプロ向けの会員制直需木材市場です。記念市のセリが始まった頃から雨も晴れて、大勢のお客さんが集まってきました。すごい活気ですね。

[ 守谷 ]
守谷建具では、いつもここで材料を仕入れているんだ。去年は、自宅の改修もやっていたから、銘木や木材だけじゃなく、建材や住宅設備機器も含めて月平均で大体100万円くらい仕入れてるよ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
建材から設備までいろいろありますが、一枚板の品揃えが豊富ですね。守谷さんは、さっそくセリで一枚おとしました。モミの木(材寸法2500×75×1030mm)ですね。これは建具用ですか。

[ 守谷 ]
いや、建具は桧や杉で作っているから、これは造作家具向けだ。建具を買ってくれたお客さんに家具も作るんだ。
本命は、九州産の杉だったんだけど、ほしがっている工務店もいたから、ゆずることにしたんだ。そもそも建具向けの材料は、工務店が欲しがっているものとは全然違うんだ。
例えばこの神代杉(じんだいすぎ、注1)は、建具向けだ。よく見ると、木の表面にミゾがあってテーブルには使いにくいと思うだろ。でもうちの無垢(むく)建具は木裏(きうら)の方を見せるもんだから、木表(きおもて)側にミゾがあっても、埋め木をすれば十分に使えるんんだ。ここの店頭に出ている一枚板は、当たり前だけどみんな木表を見せている。でも無垢の建具は木表を使ったら即クレームだ。反りが起きない木裏を見せるから、この板を挽いたら、木裏がどう見えるかと言うことが重要なんだ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
つまり、見える表面ではなく、見えない裏側が重要なんですね。

[ 守谷 ]
最近ではインターネットを見て施主支給で一枚板を購入したいっていう一般のお客さんが多いもんだから、業者目線だけじゃなくて、エンドユーザー目線も必要になっているんだ。いまセリにかけている丈の短い杉板も建具の腰板向けだが、最近は一枚板をずらりと並べてお客さんに見せることが多いから、化粧板向けに工務店に譲ることにした。今日はこの板を仕入れるよ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
「日光東照宮」と産地が書かれている杉板ですね。特別な事情で出荷された神域の木材のようです。これならエンドユーザーも納得の銘木です。

[ 守谷 ]
あと先ほど話していた、九州産の杉もいい。九州産は材質が柔らかいが、台風の通り道だから木目の暴(あば)れたものが多い。関東だと山武(さんぶ)杉(千葉県東部産)もいいのがあると仕入れる。山武杉も木目も暴れたものが多いんだ。

[ 材木店 ]
この九州産の杉と、あそこの九州産の杉は、同じ一本の木からとったものです。厚みが3寸(約10cm)だから、5分(約15mm)で挽くことができます。

仕入れ交渉
[ 守谷 ]
あと数枚同じ木で揃えてもらってから買うことにした。無垢の引き戸だと同じ木からとっている方が、木目が揃っていいんだ。

ブルーシートをひらく
[ 守谷 ]
今日は雨が降っていたからブルーシートがかかっているんだが、例えばこの桧も、引き戸に使う框(かまち)にいい。木裏を2枚重ねて使うんだ。框向けには三面無地(さんめんむじ)の桧を探して仕入れる。木製サッシ用だと四面無地(よめんむじ)の桧を木裏見付(きうらみつけ)にして使う。四面無知の桧があったら買うから集めておいてくれっていつも頼んでいるんだよ。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
今日は、守谷見学の仕入れを見学させてもらいましたが、材料の仕入れ段階から他者と完全に差別化ができているのが驚きでした。

[ 守谷 ]
最近は職人不足のせいか、木材市場の利用者が年々減っているそうで残念だ。やはり市場に直接足を運んで、この木ならこんな使い方もできるなって自分で発見するのがプロの仕事の醍醐味(だいごみ)なんだ。だから、自分流の木の使い方が分かってくると、もっと楽しく利用できるようになるよ。

注1 神代杉: 土や火山灰や水の中で、長い年月、埋もれていた大昔の杉のことを指す。

木づかいのコツ 不燃木材への挑戦 4 – 『月刊住宅ジャーナル』2019年08月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年08月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1908d1 )。

新連載 直伝 木づかいのコツ 不燃木材への挑戦 4

第8回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月刊住宅ジャーナル ]
今月号では、いよいよ不燃材の製造技術についての話となります。

[ 守谷 ]
今までの復習をすると、不燃材で多い製造方法は、白太(しらた)に薬剤を含浸させる技術であるわけだが、デメリットがある。守谷建具では、過去にこのような技術を考えてきた。

  • パラフィン乾燥の応用技術(2012年特許)
  • フリーズドライの原理の応用技術(97年日本木材学会発表)

しかし、これらの製造方法は、不燃材の製造に応用しようとするとデメリットがある。一番良い含浸方法は減圧と加圧を同時に行う方法だ。

  • 多孔質木材の製造方法・加熱加圧を同時に行う製造方法(2008年国際特許)

加熱・加圧の製造方法の概要については、以前、ジャーナルで紹介した通りだ(住宅ジャーナル2008年6月号参照)。この製造方法については、本当にこれで製造をしたい人に任せたいと思っている。
フリーズドライの原理については、今まで説明してこなかったから、ここで紹介する。フリーズドライの原理というのは、真空状態で氷を気化させることだ。凍ることで多孔質に水分を蒸発させる。これがフリーズドライになる。だからフリーズドライは天ぷらみたいに穴だらけになる。フリーズドライの昔ながらの例としては凍み豆腐(高野豆腐)がある。お湯をそそぐとカップラーメンのように具が元に戻る。
杉の白太がくさりやすい理由として、空気と水がいっぱい入りやすいということがある。生木だと体積の90%が水分と空気で、生木を製材した状態でも50%〜70%が水分だと思われる。杉の場合は、空気の割合が正確に測定すると、おそらく90%で、木材の細胞の割合が10%ほどになる。
多孔質にするには、体積の50%〜70%の水分を瞬時に帰化させるといい。それが天ぷら乾燥の技術で、守谷建具が開発した木材の加熱・減圧の多孔質加工の技術になる。50%の水を空気にすると約1300倍の体積に代わるので、勢いよく泡になって出てきて細胞をこわすわけだ。これが水蒸気爆発だ。
富士山は気圧が低いから80℃でも沸騰する。真空だと氷も気化するから、温度を130℃〜150℃くらいにして真空にする。真空にすれば130℃の温度だ。乾燥剤でも多少の水分が勢いよく気化する加熱・減圧の原理となる。
木材を130℃に加熱して、空気を膨張させてひっぱる。そうすると空気が0に近くなる。
だから、加熱してから、減圧を行う。減圧で引っ張って空気を抜き、加熱で膨張させて空気を膨らませる。これを同時に行うことで空気を抜くというやり方だ。
この原理としては論文で発表したことがあるから、詳細はそちらを読んでほしい*。
この発表のきっかけは、今から20年前に奈良の木材研究所にサンプルをもっていったことがきっかけなんだ。4寸角2mの木材に不燃材を含浸させて持っていったら、ライトバンからおろそうとしたら、不燃薬剤で重くて木が下ろせなかった。研究者も驚いて、後で学会で発表するからという話になって、うちの地元の埼玉の試験場で試験をしたんだ。
この製造法は、メリットとデメリットがある。
一番のメリットは細胞が破壊されることにより強度が増すことがある。普通に考えると強度が損なわれると思われるが、実際は強度が増す。木材がスポンジ状になっているので液体はしみこみやすくなる。
デメリットは水分を吸収しやすくなるので、改質木材以外には使用できないことだ。特に常時湿気の多い場所での使用には注意が必要だ。結果的には木材が腐敗しやすくなる。ばい菌が入りやすくなるわけだ。

不燃化のまとめ

[ 守谷 ]
最後に植物性の不燃化について、自分の実験と経験をまとめてみたので、参考にしてほしいと思う。
濃度としての一番の条件は、不燃化濃度10%以下が絶対条件だ。木材もそうだが、特に和紙・紙類などで濃度が10%以上になると商品価値が劣る。
製造方法としては、木材も紙類も同じと思っていいだろう。順番に挙げてみると、

  1. 物質を多孔質にすること。
  2. 物質を絶乾状態にすること。
  3. 真空に近い状態にすること。加熱を同時にするといい。
  4. 不粘液を50℃ぐらいに加熱し真空状態で器に注入する。
  5. 加圧する。できれば真空と加圧を同時にすれば良いが、技術的に困難である。
  6. 器から出した木材は低い温度での乾燥が良い。

特に注意する原理として、乾燥剤は、減圧・真空にすることにより、木材の表面温度が急激に下がり、常温の不燃液では結晶が起こり、目詰まりが始まる。和紙の実験では、不粘液の濃度5%で不燃状態で炭化する。4%では炭化はするし、試験体によっては炎も見られる。

[ 月刊住宅ジャーナル ]
不燃材の製造の方は、これで終わりということになります。
読者の方からも多くの感想をいただきまして、新しいアイディアが一体どこから出てくるんだろうという声が多くありました。聞いている私にとっても、まるで、目の前のトトロの森(狭山丘陵)からこんこんとアイディアが湧いてくるようでした。
(次号につづく)


杉材の細胞壁孔の膜を破った状態

 

*第47回日本木材学会大会研究発表要旨集(1997)「加熱一減圧処理による木材の透過性改善」

木づかいのコツ 不燃木材への挑戦 3 – 『月刊住宅ジャーナル』2019年07月号掲載

守谷インテリア木工所が月刊住宅ジャーナル(株式会社エルエルアイ出版) 2019年07月号で紹介されました。以下に転載します。
全文はこちら( monthlyhousingjournal-1907d1 )。

新連載 直伝 木づかいのコツ 不燃木材への挑戦 3

第7回(全20回予定)
守谷建具(埼玉県)代表 守谷和夫

[ 月刊住宅ジャーナル ]
前回は、不燃木材の一例として、ホウ酸を原料とした不燃材の特徴と注意点について紹介しました。これまで硫安やホウ酸を原料とした不燃木材について追ってきまして、性能面においても、製造コストにおいても優位性があることがわかりました。これらを一定の品質で大量に生産するには、どのようにすればいいのですか?

生産性の高い製造方法
[ 守谷 ]
去年の朝の連続ドラマで、チキンラーメンの創業者の話があったろ。あのドラマを観ると、不燃木材を製造するためのいいたとえがあるんだよ。
まず、不燃木材の生産性が低くてコストが高止まりの要因は何かということから考えてみる。
一番の要因は、乾燥技術だ。一般的な不燃木材は含水率15%~25%ほどの普通の製材を使っている。これではだめなんだ。普通の木材にいくら薬剤を含浸させようとしてもなかなか入らない。
なぜ入らないかということは、この連載の第3回目(1月号6頁)で勉強した通りだ。杉には赤身と白太があって、赤身には、壁孔に膜がついてふさがっている。この弁は簡単には開くものではないから、赤身には薬剤が含浸していかない。だから、不燃木材を製造する業者は、白太だけを選び出して含浸させようとするから、木材のコストがアップするんだ。
薬剤を白太に含浸させるだけなら、とにかく木材の含水率を下げて0%~3%にすると、薬剤がしみこむ。
では、含水率3%まで木材を乾燥させるには、どのような技術を使えばいいかということだ。既存の高温乾燥技術ではだめだ。赤身は(芯材)は劣化するが、壁孔は破れないんだ。

木材でチキンラーメン
[ 月刊住宅ジャーナル ]
高温乾燥材は、今から10年近く前に内部劣化が問題になって、木造住宅での利用が減少し、集成材のシェアが拡大したという経緯があります。

[ 守谷 ]
あれは、木材の熱質量に関する基本的な知識不足が原因だ。木材の研究者は熱力学の基礎なんて普通は勉強しないからな。
例えば、100℃のサウナに入っても火傷しないのに、ホッカイロを腹につけていると、なぜ低温やけどをするか説明できる木材の研究者がどれだけいるのだろうか。
ホッカイロの原料となる鉄の比重は約5だ。水の比重が1だから5倍の熱を蓄える力(熱質量)がある。だから、すぐに火傷する。サウナの空気の比重は0なので、熱をたくわえないから火傷しない。
木材を高温乾燥すると真ん中の熱質量が高くなるから、内部気圧が高まり、圧力釜と同じ原理になって劣化する。木材は、仮比重で0.3 ~ 0.4。水は1。空気の比重はゼロだ。ところが木材は、空気の部分を除くと、仮比重0.3 ~ 0.4からセルロースの実質比重の3に近づいてくる。木材に対して比重の低い物質で熱すると内部と外部のムラができる。だから、高温乾燥に内部劣化の問題も起きてくるというわけだ。 (注1)
熱を均質に伝えるための解決方法としては、水分と同等に近い比重の液体を選ぶといいということだ。
熱を均質に伝える例として、石やきいもがある。石やきいもは、比重の高い石を使うから、時間をかけていもの中の水分を均質にとばしてホクホクにする。だからうまい石焼きいもができる。
もう一つたとえになるのが、最初に言った朝の連続ドラマのチキンラーメンだ。あれは油で乾燥させる「天ぷら乾燥」技術だ。高温の油で水蒸気爆発を起こす技術だ。ただし、油は引火して燃えやすいから、食品はいいとしても、木材製品の乾燥には使えない。
もう一つ、より安全な技術として用いられているのが、パラフィン乾燥の技術だ。ここでは油の代わりに蝋(ろう)をつかう。油と蝋は同じようなもので、引火しにくいメリットがある。ロウは水よりも比重が高くて100℃でも焦げない。外の比重に対して内の比重が少なくなって差がなくなると、爆発的に内部の水分を気化して外に出す。これがパラフィン乾燥の原理だ。
木材をインスタントラーメンのように乾燥させれば、木材が孔だらけになって、3分でできるインスタントラーメンのように、不燃薬剤がしみこみやすくなる。
これらと同じ原理を使えばいい。溶けたロウの中に木材を入れると、危ない、すべる、燃える、と危険だらけだから他の材料を使う。加熱ができて、水分と相性の悪い液体がいい。そうすると天ぷらと同じ原理で、比重・熱質量が高い材料で乾燥させて木材をインスタントラーメンのようにすることができる。
つまりは、木材の細胞の中で水蒸気爆発を起こさせればいいということだ。フリーズドライと同じ原理、つまり加圧で真空にしても、同じことになる。
それでは、どのような機械を使ったら、この天ぷら乾燥の技術を木材乾燥に応用できるのか。次回で画期的な技術を提案してみたい。
(次号に続く)


杉材の細胞壁孔

細胞壁孔は膜で閉じられている

杉材の細胞壁孔の膜を破った状態

 

注1: 内部劣化のメカニズムについては様々な説がある。本誌では守谷氏の説に基づいている。